ハンガリー、ウクライナ人歓迎も アフガン人は拒否 学生を隣国に追放も

Darko Vojinovic / AP Photo

 ロシアによる戦争が開始されると、ハンガリーは数万人にのぼるウクライナからの避難民に向けて国境を開放した。一方でほかの国からの避難民は、救いを得られないままセルビア平原に置き去りにされている。

 ハシブ・カリザダ氏はハンガリーの学校で勉強を始めて3年経った2021年8月、出身国アフガニスタンが先行き不明の大混乱に陥り、ハンガリーへの亡命を申請した。しかし、ハンガリー当局は半年前、同氏を避難民として受け入れることなく隣国のセルビアへと追放した。カリザダ氏は見ず知らずの国へ追い出されてしまった。

 同氏は「警察がやって来て私に手錠をかけました。『逃げようとするな、我々に挑もうとするな、ばかげたことを企むな』と言われました」とAP通信にセルビアの首都ベオグラードで語る。

 見渡す限りひとけのないセルビア平原に一人残された25歳のカリザダ氏は、自分の居場所もわからず、どこに行けばいいのか、何をすればいいのか見当もつかなかった。

 同氏は「私は学生でした。私の人生は大きく狂わされてしまいました。衣服や携帯電話の充電器、ノート型パソコンなど、旅行に必要な大切なものを詰め込む猶予も与えられませんでした。セルビアがどこにあるのか、どのような言葉が話されているのか、どのような文化なのか、まったく知識がありませんでした」と話す。

 AP通信はハンガリー警察に対し、2021年9月に国外追放したカリザダ氏の件についてコメントを求めていたものの、回答はすぐに得られなかった。

 ハンガリーは、戦争や貧困から逃れてきた移住者に対する扱いをめぐって悪評を買っている。カリザダ氏の事例によって、出身国ではない第三国へ人々を移送するという極めて悪質な慣行があることが示された。

 この地域の権利擁護活動家によると、このような事例が初めて確認されたのは2017年だという。この年に、イラク出身の16歳のクルド人青年がハンガリーからセルビアに追放された。青年は当初、ルーマニアからハンガリーに入国し、なんとかオーストリアにたどり着いたものの、ハンガリーへ送還された経緯をたどっていた。

 最近では、ルーマニアからハンガリーに入国したカメルーン人女性が2021年12月にセルビアへ移送された。また、アラブ首長国連邦ドバイから入国したアフリカ出身の女性も1年前、セルビア平原に追放されている。

 セルビアの権利擁護派弁護士であるニコラ・コバチェビッチ氏は「残念ながらこのようなことはよくあり、異例であるとは考えにくい状況です」と話す。

 ハンガリーではオルバーン・ヴィクトル首相率いる右派政権のもと、ウクライナから逃れてきた人々への対応と、ヨーロッパ以外の紛争地域から避難してきた人々への対応に顕著な違いが見受けられる。カリザダ氏の国外追放は、それを明確に示している。

 移民への暴力が非難されてきたEU加盟国のクロアチアも同様に、ウクライナ人の入国と滞在を受け入れることを表明している。

 活動家は、長年にわたって危険な状況にさらされ、ハンガリーやクロアチアなどのヨーロッパ各国の国境で抵抗にあってきた中東やアフリカからの避難民や移民に対する差別を警告しつつも、政策の転換を高く評価している。

 人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチに関わるジュディス・サンダーランド氏は「このような問題に取り組んできた私たちにとって、この数週間で顕著になった、ほかの戦争や危機的状況から逃れてきた人々に対するヨーロッパの手厳しい反応との相違は見逃すことができません。毎年、アジアやアフリカ、中東から来た驚異的な数の人々が、ヨーロッパを目指しながら犠牲になっているのです」と訴える。

 人権NGOのハンガリー・ヘルシンキ委員会に携わるゾルト・ゼッカーズ氏は「ハンガリー政府は、ウクライナ人は善良な亡命希望者で、ほかの人々は質の悪い移民であるとする格好の理由を思索しているところです」と述べる。

 ハンガリーではゾルターン・コヴァーチ報道官が、4月3日に行われる選挙を前に、ウクライナから入国する避難民のなかでも当局による差別が行われているとの報道を「フェイクニュース」であるとはねつけた。

 国際法で非合法とされている国境での押し返しは、個々の事情が考慮されることなく、人々が別の国へ移送されるということだ。

 セルビア人弁護士のコバチェビッチ氏は、カリザダ氏のように出身国ではない国へ追放されるケースは「違反の深刻度合いが高まる」と指摘する。

 カリザダ氏は違法な密航ルートによってハンガリーへ入国したわけではないため、国外追放はいっそう心外で突然の出来事であった。学費を自費でまかなう学生であり、アパートをシェアしながらブタペストでの生活を確立していた同氏が亡命を申請した背景には、アフガニスタンでの混乱がある。家族が大学の費用を支払うことができなくなり、居住許可の更新ができなくなった。

 カリザダ氏の亡命申請を却下したハンガリー当局は、タリバン復権によって母国アフガニスタンが安全ではなくなった事実を度外視していると、活動家は指摘する。

 カリザダ氏はAP通信に対し「家族がタリバン以前のアフガニスタン政府とつながりがあり、報復される危険にさらされている。外出することもままならない」と話す。

 同氏の案件はヘルシンキ委員会によってハンガリーの裁判所と欧州人権裁判所の双方に申し立てられ、非合法的な国外追放が欧州人権条約に反していることについての議論が行われた。

 ハンガリーの裁判所による判決はカリザダ氏を支持する内容であったものの、弁護士は現在も法廷闘争を続けている。ハンガリー当局に対し、判決の実行と同氏の帰国許可を求めるためだ。

 ゼッカーズ氏は「カリザダ氏は亡命を申請しました。この国に滞在しており、保護を必要としていました。すると、手っ取り早い方法で排除されたのです。状況を説明する機会も選択肢も一切与えられませんでした」と訴える。

 国外追放された後の数日間は、カリザダ氏にとって人生で最も過酷な日々であった。

 セルビアに置き去りにされたカリザダ氏は、数時間歩いた後、ガソリンスタンドにたどり着いた。そこにいた女性に携帯電話の充電を借り、一番近い亡命センターへの行き方を聞いた。センターは人で溢れかえり、4晩も屋外で寝たという。

 同氏は「とても恐ろしい思いをしました。私は普通の学生でした。勉強をし、学校に通い、友達もいました。自分の人生があったのです。何も悪いことはしていません」と話す。

 クルド人青年のカロックス・ピシュテワン氏は、2017年にセルビアへ追放され、そこで亡命が認められた。ハンガリー警察は「説明もなくゲートを開け、行くよう私たちに命じた」とAP通信に話す。

 同氏は「7月のことでした。辺り一帯は緑に覆われていました。私は大きな衝撃を受けました。我々は3日間寝ておらず、そこに追い出されました。どこにいるのかもわからず、何が起きているのかも理解できませんでした」と当時を振り返る。

 政府の長年にわたる反移民政策にもかかわらず、ウクライナからの避難民が受け入れられていることについてゼッカーズ氏は「ハンガリーの一般市民の間では困っている人との連帯感が強く保たれている」と話す。

 同氏は「子供と一緒に避難するウクライナ人両親と、子供と一緒に避難するアフガン人両親の間に違いはありません。今回のことで、みなさんに気づいてほしいです。出身がどこであっても、亡命を希望する人は保護されなければなりません」と訴える。

By JOVANA GEC Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP