インドネシア、新首都「ヌサンタラ」建設へ 地盤沈下、大気汚染のジャカルタから移転
インドネシアの首都ジャカルタはいま、人口過密と大気汚染、地震頻発や急激な地盤沈下に悩まされている。同国政府は、首都をボルネオ島(インドネシア語名:カリマンタン島)に移転しようとしているところだ。
ジョコ・ウィドド大統領は、新首都建設を「ジャカルタを悩ませている問題の万能薬」ととらえている。現首都の人口過密緩和や公共交通機関の充実を図るとともに、自然災害が起きにくく、自然環境と一体化した地域にある「持続可能な都市」で再出発する意向だ。
大統領は1月、国会承認に先立ち「新首都建設は、単なる政府機関の物理的な移転にとどまらない。主な目標は、世界レベルで競争力のあるスマートな新都市を建設すること、そしてグリーン経済に基づくイノベーションとテクノロジーに裏づけられた国を目指す、変革への新たな原動力を構築することだ」と述べている。
しかし懐疑派からは、オランウータンやヒョウなど、さまざまな野生生物が生息するボルネオ島の東カリマンタン州に25万6000ヘクタールもの広大な都市を建設することは、「環境破壊につながる」といった声も上がっている。また、コロナ禍においてこの野心的なプロジェクトに340億ドルもの予算をかけることを懸念する意見もある。
環境保護団体WALHIの幹部のディウィ・サウン氏は「新首都の戦略的環境調査によると、基本的な問題が少なくとも3つあります。水系への脅威と気候変動のリスク、動植物への脅威、そして汚染と環境破壊の脅威です」と語る。
ウィドド大統領が最初に「ヌサンタラ市建設計画」を唱えたのは、2019年のこと。同計画によると、政府関連施設や住宅をゼロから建設する必要がある。当初の試算では、約150万人の公務員がジャカルタから北東に約2000キロ離れたヌサンタラ市に移転するとされており、各省庁が正確な数の確定に取り組んでいる。場所は、東カリマンタンの港湾都市バリクパパン(人口約70万人)近辺になる予定だ。
インドネシアは1万7000を超える島々からなる群島国家で、人口はおよそ2億7000万人。全人口の54%がジャカルタのあるジャワ島で暮らしており、人口過密状態になっている。ジャカルタには約1000万人が暮らし、首都圏はさらにその3倍の人口を抱える。
ジャカルタは世界で最も急速に地盤沈下している都市として知られ、このままでは2050年に街の3分の1が水没すると推定されている。主な原因は無秩序な地下水のくみ上げだが、気候変動によるジャワ海の水位上昇が拍車をかけている。
さらに、大気汚染や地下水の汚染も深刻だ。定期的に洪水が発生するほか、激しい交通渋滞による経済損失は年間45億ドルに上ると言われている。
インドネシアは今後、パキスタンやブラジル、ミャンマーなどの国々による「首都建設」と同じ道を歩むことになる。
建設監督委員会を率いるのは、アブダビの皇太子でアラブ首長国連邦での野心的な建築プロジェクトにも詳しいシェイク・ムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン氏、さらに日本からソフトバンクの創業者兼CEOの孫正義氏、元英首相で現在はトニー・ブレア地球変動研究所を運営するトニー・ブレア氏と、錚々たる面々だ。
プロジェクトにかかる費用は19%を国家予算で負担し、残りは政府と企業間による協力、国営企業と民間企業の直接投資で賄う予定だという。
公共事業・住宅相のバスキ・ハディムリョノ氏によると、すでに初期計画は実施済みで、大統領官邸や国会ほか政府機関、また首都と東カリマンタンの各都市を結ぶ道路を建設するために、5万6180ヘクタールの土地を開拓したという。
計画では、2024年までに中核的な行政区域が完成し、それまでに約8000名の公務員が市内に移動する予定となっている。
ウィドド大統領は以前、任期が終わる2024年までに内務省・外務省・国防省・国家事務局とともに大統領官邸も新首都に移転するとの見通しを示した。すべての移転は2045年までに完了する予定だ。
インドネシア大学の公共策専門家であるアグス・パンバジオ氏は「ジャカルタや現地の住民への影響は不透明」だと話し、この問題を研究するために人類学者を招集するべきだと呼びかけている。
同氏は「公務員として働く人々にとっても、社会全般や地域住民にとっても、非常に大きな社会的変化があるだろう」と述べている。
By EDNA TARIGAN and NINIEK KARMINI Associated Press
Translated by isshi via Conyac