パンデミックで傷ついた子供たち、心のケアが必要 ユニセフ報告書

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 ユニセフ(国連児童基金)は5日、新型コロナウイルスのパンデミックによって立場が弱く貧しい子供たちが精神的に大きな打撃を受けていることに警鐘を鳴らす報告書を公表した。そのなかで、各国政府は子供や若者の精神的健康を守るために多くの資金とリソースを投入しなければならないと訴えている。

 ユニセフによると、今回発表された『世界の子供たちの現状(原題:State of the World’s Children)』は、世界の子供たちと若者の精神的健康に関する今世紀でもっとも包括的な調査だという。学校が休校となり子供や若者の生活を激変させたコロナ危機は、彼らの心の問題を明るみにした。

 パンデミックが若者の精神的健康に与えた影響を完全に把握するには、数年を要する可能性があるという。子供や若者は、ロックダウンが始まり遠隔学習に移行したことで友人や日常生活から切り離された。両親や祖父母がコロナウイルスの犠牲になり、自殺願望や不安、摂食障害などで助けを求めたこともあり、精神科医はすぐさま彼らの苦痛の兆候を察知した。

 ユニセフのヘンリエッタ・フォア事務局長は、「全国的なロックダウンやパンデミックによる行動制限により、子供たちは家族や友人、学校、遊びなど、子供時代に欠かせないものから切り離されて、人生のなかで記憶から消すことのできない年月を過ごしている。その影響は大きいが、氷山の一角に過ぎない。パンデミック以前も、多くの子供たちは解決されることのない精神的な問題の重圧に苦しんでいた。こうした深刻なニーズに対し、政府はほとんど投資をしていない」と述べている。

 小児精神科医たちによると、パンデミックで感染者数が増加する以前から、利用できるリソースが不足していた。精神的健康を促進・保護するための支出はきわめて少ないものの、そのニーズは切迫しているとユニセフは訴えている。また、2019年のパンデミック前の統計を引用しつつ、10代の若者の自殺者は毎年約4万6000人にのぼると推定している。

 パンデミックに関連する子供や若者の悩みがあまりにも大きいため、具体的な行動を始めた国もある。精神的健康に関する2日間の世界会合が今月開催されたフランスでは、子供や若者を対象に無料の心理療法を提供しているほか、来年からは医師の処方箋を持つすべての人にこの支援を拡大すると表明している。ほかの国でも、コロナ禍に精神的な問題を抱える人を手助けするために新設されたものも含め、相談ホットラインに対する需要が急増した。

 ユニセフによると、感染するかもしれないという不安、ロックダウン、学校の休校、そのほか生活をする上での混乱など、複数の心配事が子供や若者の精神的健康に影響を与えている。また、ロックダウンは行動面での問題に拍車をかけ、とくに自閉症や注意欠陥多動性障害をもつ子供たちに与える影響が大きかったともしている。

 遠隔学習を利用できなかった若者は数億人もいた。ユニセフは、インターネットにアクセスできない、テレビがないといった理由により3割の生徒が遠隔教育に参加できなかったことを明らかにした。もっとも大きな被害を受けたのは貧しい家庭の子供たちだった。アフリカ東部と南部の国々では、7月の時点で4割の子供が不登校だったと推定されている。

 退学を求められたり家計の手助けを強制させられたりすることがなくても、子供たちはパンデミックがもたらした雇用や経済への破壊的な影響による被害を受けている。ユニセフの試算では、今回の危機により貧困状態にある子供の数が急増しており、昨年は1億4200万人の子供たちが新たに貧困状態に陥ったとされる。

 また、経済的な困難や学校の閉鎖により、多くの少女が幼な妻として早すぎる結婚を強いられるリスクにさらされているとユニセフは警告している。

 高齢者や社会的弱者と比べると、子供や若者がコロナウイルスで命を落とす可能性は低いものの、パンデミックによって彼らの長期的な未来に影を落とし、「生活を激変させ、精神的健康と幸福に対する現実的な懸念を生み出している」と注意喚起した。

 ユニセフは、「教育を受けられなくなった世代では、その夢や生涯収入に影響が及ぶだろう」とした上で、「今回のパンデミックの余波で、今後数年にわたり子供や若者、介護者の幸福が徐々に奪われる危険性がある」と述べている。

By JOHN LEICESTER Associated Press
Translated by Conyac

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Text by AP