中国の若者の抵抗「タンピン」ムーブメントとは 警戒する政府
「タンピン(躺平)」というコンセプトが、にわかに中国のネット上で広まっている。タンピンは直訳すると寝そべるという意味で、報われない長時間労働に身を投じるのではなく、リラックスした最低限の暮らしをするといったような価値観を表した、オルタナティブなライフスタイル・コンセプトだ。タンピン主義が流行する背景とは。
◆ミレニアル世代の新たな価値観?
タンピンの考え方は、ルオ・ホアジョンが今年4月に投稿した「タンピンは正義」というタイトルのブログ記事がきっかけで広がり、とくにミレニアル世代の若者の共感を得た。彼は、5年前に仕事を辞め、日雇い的な仕事で収入を得つつ、自転車で旅をするといったようなリラックスしたライフスタイルを実践。このタンピンというライフスタイルは、反消費者主義の新しいマニフェストであり、中国政府の推し進める成長戦略に、受動的なかたちで逆らうものだ。タンピン主義の主要なスローガンでは、家や車を買わない、結婚しない、子供を持たない、消費しないといった内容が謳われている。
とにかく働き、消費することで経済成長を推し進めるというあり方を否定するタンピン主義の、にわかな盛り上がりに対して、中国政府は警戒を示している。中国で人気があるソーシャル・カルチャー・プラットフォーム・サイト『ドウバン(Douban、豆瓣)』上で、9000人以上のメンバーが参加していたタンピン・コミュニティは、検閲によって削除された。また、20万人以上のメンバーが参加する別のタンピン・コミュニティでも、タンピンに関する投稿が禁じられた。政府は、オンライン・プラットフォームに対して、タンピンに関する投稿を厳しく規制するように指示し、イーコマース・サイトに対しても、タンピンを促進するようなデザインのグッズ販売をやめるように指示したという(ニューヨーク・タイムズ)。
タンピンというキーワードは、新しく流行しているものだが、関連した考え方は以前から話題になっていた。中国の労働カルチャーを表現する言葉の一つが「996」。朝の9時から夜の9時まで、週6日間働くという意味だ。2019年には、この過酷な労働の状況に対して、テック業界関連者の間で「996.ICU」というキャンペーンが展開された。996とICU(集中治療室)を掛け合わせた単語は、996の働き方では、体を壊して集中治療室に運ばれてしまう、つまり長時間労働に警鐘を鳴らす、反996のメッセージだ。そして、もう一つのキーワードが「内巻(ネェイジュエン、involution)・内巻化」という言葉だ。英語のinvolutionは、米国の人類学者クリフォード・ギアツ(Clifford Geertz)の功績により広まった単語で、労働資本の追加が必ずしもアウトプットに比例せず、社会は複雑化するといった意味だが、現代中国の文脈においては、最終的に意味をなさない競争、もしくはゴールの見えない内部競争の加速化といった状況を表している。
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