感染拡大のなか断食月ラマダン迎えたイスラム教徒 警戒下で集会
4月13日、イスラム教徒にとってもっとも神聖な月である断食月ラマダンの礼拝が始まった。新型コロナウイルスのパンデミック開始と重なった昨年は、ラマダンの時期にもモスクは閉鎖されて無人だった。だが今年に関しては、ソーシャルディスタンスを確保した上で、モスクに人が集まっている。
世界でもっとも人口の多いイスラム教国であるインドネシアでは現在、感染者数が急増中だ。しかし同時にワクチン接種も広く実施されており、インドネシア政府はコロナ関連の規制を緩和しつつある。感染防止のための厳格な手順を適用することを条件に、モスクでラマダンの祈りの集会を開くことも許可された。営業を再開したショッピングモールやカフェでは、過去のラマダン同様に、断食中の人たちの視界に食べ物を入れない配慮としてカーテン設置も行われている。
インドネシアの隣国で、イスラム教徒が多数を占めるマレーシアにおいても、新型コロナ関連の規制が緩和されている。ここでは、昨年は禁止となった「タラウィーフ」と呼ばれる夜間の祈りの集いや、多くの人出が予想される飲食物や衣料品の野外バザールの開催が、今年は許可された。
インドネシアのヤクット・チョリル・クーマス宗教相は、12日の夕方に放映されたテレビ演説のなかで、新たなラマダン月の幕開けを宣言した。この聖なる月には、人々は普段以上に熱心に祈りを捧げ、夜明けから日没まで断食を行い、夜間のうちに家族や友人らで集まってたっぷりと食事を取る。
昨年のラマダンでは、政府当局はモスクをすべて閉鎖し、イスラム聖職者たちは「ファトワ」と呼ばれる宗教令を出して、イスラム教徒たちはウイルスを拡散するリスクを冒してまで混雑した場所に集まらず、聖なる月を各家庭内で祈り過ごすよう勧告した。
ジャカルタにある「イスティクラル・グランド・モスク」のイマーム(指導者)を務めるナサルディン・ウマル氏によると、新型コロナウイルスの再流行が予想されるなかでも、今年はすべてのモスクがソーシャルディスタンスやそのほかの感染防止策を確実に守り、集会に集まる人数を減らすことで対応していくという。
同氏は、「私自身も、ラマダンを待ち焦がれてきました。敬虔なイスラム教徒の心は、常にモスクと結びついています。パンデミックはまだ続いていますが、ラマダンを愛する人々が強く待ち望んできた規制緩和がようやく実現しました」と述べている。
首都ジャカルタのアニス・バスウェダン知事は、「当局はラマダンに備え、317ヶ所のモスクを消毒した」と発表。モスク内にはソーシャルディスタンスを示すマーカーが設置され、石鹸と手指消毒剤が準備された。
またインドネシア政府は、集客を最大定員の半分以下に抑え、厳格な感染防止ガイドラインに従うことを条件に、ラマダン期間中にレストラン、ショッピングモール、カフェなどで「イフタール」の食事会を開くことも許可する。
このイフタールは日没時に始まる。この時間は一般的に、日中断食を行うイスラム教徒たちが、夜の祈りの前に友人や家族らとともに夕食をとるのに最適な時間だ。
ジャカルタに住むアナ・マーディアストゥティ氏は、「今回の規制緩和で、新型コロナのパンデミックで疲弊してきた私たちも、ようやく息をつけますよ。もちろん当局はウイルス拡散防止のために行動すべきですが、礼拝自体を禁止したり、ラマダンの伝統を完全に変えてしまったりすべきではありません」と話す。
一方、マレーシアに住むワン・ノラドリアナ・バルキス氏(21)は、地域の人々がモスクで祈りの集会を再び開けること自体は歓迎しつつも、多くの人で混み合うラマダンのバザールに行くことは避けるようにしている。
マレーシアでは、現時点での感染者数は今年1月比で3倍以上となる38万人を超える水準だ。またインドネシアも、東南アジア諸国の中ではもっともパンデミックの被害が大きい国であり、現時点での感染者数は160万人以上、死者数は4.4万人以上となっている。
インドネシア政府は、ラマダン時期を通じてワクチン接種キャンペーンを継続する予定だ。その一方で、「日の出から日没までは、身体に一切何も入れるな」という伝統的なイスラムの教えを気にかけてワクチン接種をためらう人もいることから、この懸念を和らげる試みも行われている。
インドネシアでもっとも権威あるイスラム聖職者団体は、イスラム教徒にはラマダン中に予防接種を受けることが許されているだけでなく、むしろ「受けるべきだ」との声明を出した。
インドネシア・ウラマー評議会のイスラム法学者の代表を務めるアスロルン・ニアム・ショレ氏は、「ラマダン期間中のイスラム教徒はあらゆる飲食を控えるべきとされているが、新型コロナのワクチンは、血管ではなくではなく筋肉に注入される上、いかなる栄養素も含まないことから、断食を妨げる飲食にはあたらない。ワクチン接種の政策を続けることで、次回のラマダンまでには、確実にすべてを正常に戻すことができるでしょう」との見解を述べている。
ジャカルタ市内のワクチン接種会場の一部では、イスラム教徒らが1日の断食を終えた後に来場できるよう、受付対応時間を延長している。
インドネシア政府は来年末までに、国内人口約2億7000万人の3分の2に相当する1億8000万人以上に予防接種を施す計画だ。現時点では、医療従事者、高齢者、および、その他の健康リスクを抱えた人々に対して優先的に接種が行われている。またワクチンは、2回接種のどちらも、すべてのインドネシア国民に対して無料で提供される。
それに対して、新型コロナウイルスの感染者が爆発的に増え続けているインドでは、イスラム教の法学者らが人々に対し、ウイルス感染防止の手順に厳密に従い、大規模な集会を開催しないよう呼びかけている。約2億人のイスラム教徒を擁するインドでは、4月13日の夜にラマダンの祈りが、翌14日に断食が開始された。
感染者急増への対策に追われているインドの都市の多くは、現在、夜間の外出禁止令を市民に課している。
また、インドが実効支配するカシミール地方に住む数万のイスラム教徒たちは、2度にわたるロックダウンの影響で生計を立てる手段がなく、苦しい生活を強いられている。パキスタンと領有権が争われているこの地方は、ヒンドゥー教徒が多数派を占めるインドの中で唯一、イスラム教徒が過半数を占めている。ここでは昨年、新型コロナ対策として数ヶ月にわたるロックダウンが行われ、それに先立つ2019年にも、軍主導による前例のない厳しいロックダウン政策が実施された。現地で活動する複数の慈善団体は、今年も昨年と同様に、生活困窮者や貧困家庭を対象としたラマダン配給キットの配布を計画している。
By AMR NABIL and NINIEK KARMINI Associated Press
Translated by Conyac