コロナ閉鎖のレストランがホームレス保護施設に 独ベルリン市の試み

AP Photo / Markus Schreiber

 新型コロナウイルスのパンデミックは、ベルリンの路上で暮らすカスパルス・ブライダクス氏の生活にさらなる困難をもたらした。

 ラトビア出身、43歳のブライダクス氏。過去3ヶ月にわたり、ベルリン市内のホームレス保護施設が安全なソーシャルディスタンスの観点から受け入れ人数を削減している影響で、不利益を受けてきた。また、ベルリン市民の外出の機会が減ったことで、物乞いやリサイクル用のボトル収集によって収入を得ることが、パンデミック以前よりもはるかに困難となっている。

 しかし、とりわけ気温の下がった12月中旬のある朝、そんなブライダクス氏に対し、無料の温かい食事と寒さをしのげる場所が提供された。ロックダウンで閉鎖を余儀なくされたドイツの首都ベルリン最大級のレストラン「ホフブロイ・ベルリン」が、ホームレス救済事業に乗り出したのだ。

 ブレイダクス氏は、「駅にいるほかのホームレス仲間が、この場所のことを教えてくれました。それで、温かいスープに引かれて私もここに来たというわけです」と話す。

「ホフブロイ・ベルリン」は、ミュンヘン市内の有名ビアホール「ホフブロイ・ミュンヘン」の支店として建設された南ドイツ・バイエルン風のビアホール。一度は閉鎖されたこのレストランをホームレス向けに開放することを提案したのは、ホームレス保護施設でボランティア活動をしている同店の従業員だった。

 ホフブロイのマネージャーを務めるビョルン・シュヴァルツ氏にしてみれば、この提案がレストランとホームレス双方にとってウィン・ウィンの提案であることは明らかだった。なぜなら、この困難な時期にホームレスの人々を支援できるだけでなく、ベルリン市が資金を出すこのプロジェクトでレストラン側にも収益が入り、レストランの従業員に仕事を提供できるからだ。

 市当局ならびに2つの福祉団体の協力のもと、同店はこの冬いっぱい、毎日2シフト体制で最大150名のホームレスの人々を受け入れる仕組みを確立。12月15日からは、食事提供のサービスも開始した。

 盛況時には観光者を中心に1~3階の全フロアで計3000名の客を収容できるというレストラン本来のにぎわいと比較すると、このプロジェクトの規模はささやかなものだ。しかし、広々とした店内のホールは、ウイルス感染防止のため十分なスペースを確保しながらホームレスの人たちを保護するというプロジェクトの目的に合致している。

 同店マネージャーのシュヴァルツ氏は、「いつもの年であれば、クリスマスシーズンにはパーティーを目的に多くの団体客の利用があり、ポークナックル、ローストダックやローストグースなどの注文をさばいています。しかし今年に関しては、まったく事情が違います。当店では現在でも宅配サービスを行っていますが、明らかに、例年の売り上げからは程遠い落ち込みです」と語る。

 暖かな屋内空間の提供、食べ物やノンアルコール飲料の提供に加えて、レストラン側は、ホームレスの人たちが洗面に使えるようトイレのスペースを開放している。また GEBEWO(ゲーベーヴォー)とBerlinKaeltehilfe(ベァリーン・ケールテヒルフェ) という2つの福祉支援グループのメンバーが、必要に応じたカウンセリングサービスと新品の衣類の提供を行っている。

 レストラン側では、この新たな「顧客」に対応して、木製装飾の施された2階のホールを開放し、そこに40脚の長テーブルを設置した。

 シュヴァルツ氏は、「当店としては、一般的なスープキッチンの食事とは一線を画したメニューを提供する予定です。きちんとした磁器の食器に盛りつけた本物の料理を提供すること、またさらには、風味豊かなクリスマス・スタイルの料理も提供できればと考えています」と語る。

 ブライダクス氏は3ヶ月前、仕事を求めてドイツに入国した。しかし、約束されたはずの食肉工場への就職は実現せず、パスポートも盗まれてしまった。パスポートの再発行費用と地元に帰るためのバスチケット購入代金を得るために、やむなくベルリン市街で物乞いを始めたのだという。

 人口360万を擁するベルリン市内では、公共の社会福祉サービスや民間福祉団体の活動によって、これまでに3万4000人のホームレスがコミュニティーの保護施設に入所し、そこで寝泊まりしている。しかしその後もなお、ブライダクス氏のように路上に取り残されたホームレスの人たちが2000人から1万2000人いると推定される。

 ベルリン州政府で社会問題を担当する上院議員のエルケ・ブライテンバッハ氏は、「新型コロナウイルスのパンデミックによって、ホームレスの人々を取り巻く状況はさらに深刻化しました。彼らは非常に不安定な状況のなかでの生活を強いられています。十分な食べ物を確保できていませんし、気温が低い時期には、体を温められる場所も絶対に必要です」と話す。同氏の担当部局は、レストランをホームレス保護施設に転用するプロジェクトに対して助成金を出している。

 12月17日には、ブライダクス氏と同時期にホフブロイに収容された最初のホームレスのグループに向けて、「テューリンゲン風ブラートヴルスト(ソーセージの一種)のマッシュポテト、ザワークラウト、オニオンソース添え」と、「ベジタリアンシチューのポテト、ズッキーニ、パプリカ、キャロット添え」という2つの選択メニューが提供された。またデザートには、バニラソースのかかったアプフェルシュトゥルーデル(アップルパイに似たオーストリア菓子)が出された。

 以前はアレクサンダー広場の大型デパートの壁際で氷点下の夜を過ごしたブライダクス氏にとっては、このホフブロイでの待遇は期待以上のものだった。

 同氏は、「温かいスープをいただけるだけでも十分ありがたいです。そして可能であれば、1月には故郷の家に戻りたいと思います」と話す。

By KIRSTEN GRIESHABER Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP