マスク反対派の正体 仏調査で明らかになった意外な人物像

Matt Dunham / AP Photo

◆ポピュリズムとリベラリズム
 これら四つの理由からうかがえるのが、マスク反対派のポピュリズムとリベラリズムの傾向だ。同研究によれば、反マスク派の現行の政治制度や政党へ寄せる信頼度は非常に低く、大統領制度への信頼は6%、マクロン大統領へのそれは2%、政党を信頼する人も2%に過ぎない。フランス人全体に占める割合も、それぞれ34%、34%、13%と決して高くはないが、それらと比べても断然の低さだ。さらに「政治家ではなく、大衆が重要政策の決断を下すべき」と考える反マスク派は82%(フランス人平均は58%)に上り、ポピュリズムの傾向を感じる。

 他方、リベラリズムの証左として同研究が挙げるのは、「95%の反マスク派は、政府は国民の生活に干渉しすぎると考え」ており、87%が「するべきことを説かれず、個人それぞれが自分の責任で生活すれば、社会はよりよくなる」と考えている事実である。

◆陰謀論を信じ、メディアを信じない
 マスク反対派は、世界に散見される各種陰謀論を信じる人の割合がぐんと高い。たとえば、「厚生省は製薬会社と共謀し、ワクチンが有害であるという現実を大衆に隠している」と考える反マスク派は90%にも上る。これはフランス人全体の割合43%の倍以上だ。また「世界規模のシオン主義の陰謀がある」と考える反マスク派は57%(フランス人全体では22%)。「『イルミナティ』は大衆を操ろうとする秘密組織だ」と信じる反マスク派は52%(フランス人全体では27%)と、陰謀論を信じる人の割合は、政治や医療と関係なく高いことがわかる。

 プロのメディアへの不信も、マスク反対派の特徴だ。同報告書のグラフによれば、テレビで流れるニュースを信頼するのは2%(全体では29%)に過ぎない。新聞のニュースを信頼する割合も14%(全体では37%)ときわめて低い。反面、SNSの情報を信頼する率は51%(全体では14%)と抜きんでている。当然ながら彼らが情報を得る媒体は78%がインターネットで、それに次ぐ新聞11%、テレビ8%、ラジオ3%に大きく水をあける。フランス人が情報を得る媒体の順序(テレビ47%、インターネット28%、ラジオ17%、新聞7%)とは、大きく異なる。

 同研究も指摘するように「SNS、とくにフェイスブックのグループは、(中略)閉鎖空間として機能し、そのなかでは、反対意見の場所はない」。なぜなら、同じ意見を持つ者だけがグループに属するからだ。逆に言えば「民主主義運動に不可欠な条件」である「批判の視点」を欠く空間でもあると、同報告書は示唆する。

 このように、マスク反対派の問題はマスクに留まらず、現行の社会制度そのものへの不信を映し出していることがわかる。たとえパンデミックが終息しマスクを外す日が来ても、終わることのない問題といえよう。

Text by 冠ゆき