ワクチン完成したら誰から接種すべきか アメリカで議論始まる
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンを、真っ先に投与すべき人は誰なのか。米保健当局は、初回投与分をどのように割り当てるかについて、来月下旬までに何らかの指針草案を作成したいとしているが、難しい判断を迫られることになるだろう。
米国立衛生研究所の所長を務めるフランシス・コリンズ医師は最近、政府が判断に関する助言を依頼している諮問団の一つに対し、「誰もが納得する答えはありません。自分が最も優先されるべきだと思う人はたくさんいるでしょう」と述べている。
古くより、稀少なワクチンの投与を受ける第一候補としては、医療従事者と、問題の感染症による影響を最も受けやすい人たちが選ばれている。
しかしコリンズ氏は、新たな候補者を提案している。地理的な状況を踏まえ、ウイルスの流行が最も深刻化している地域の人々を優先するというのだ。
また、ワクチン試験の最終段階において、本物のワクチンが真に効果を発揮しているかを確認するための比較群として、ダミーのワクチンを投与されたボランティアの存在も忘れてはならない。
「我々には彼らに対し……何らかの特別な優遇措置を講じる義務があります」と、コリンズ氏は言う。
今年の夏には、実験段階にある複数のコロナワクチンのうち、どれが安全かつ効果的であるかを証明することを目指し、膨大な数の研究が行われる。7月末には、モデルナ社とファイザー社が試験を開始。最終的には、それぞれ3万人のボランティアが参加する見込みだ。これから数ヶ月のうちに、アストラゼネカ社、ジョンソン・エンド・ジョンソン社、ノババックス社が製造したワクチンの試験についても、同様に大規模なボランティアの募集が始まるだろう。また、中国製のいくつかのワクチンについては、他国で比較的小規模な後期試験が実施されている。
アメリカは、数百万人分の投与量を確保すると宣言しているが、現実は厳しい。年末までにワクチンの安全性と効果が立証されたとしても、有力候補であるワクチンの大半は、2回投与する必要があるといった問題があり、すべての希望者にすぐさま行き渡らせるには足りないのだ。
そのようなジレンマは世界的な問題となっている。世界保健機関も同様に、初回投与の対象者をどう決めるかという問題に取り組んでいる。そのなかで、貧困国にも平等にワクチンが行き渡るよう努めているが、富裕国が初回分のワクチンの市場を独占していることもあり、よりいっそう難しい判断が求められている。
アメリカでは、疾病予防管理センターが設けた予防接種の実施に関する諮問委員会が、いつ誰にワクチンを投与するかについて提言を行うことになっており、政府はこれに従うことが一般的だ。
しかしコロナワクチンに関する判断は、きわめて微妙なものである。そのため今回は、米議会公認の倫理学者や、全米医学アカデミーのワクチンの専門家も議論に加わり、政府に助言を行うよう求められている。
天然痘の世界的な根絶に貢献したワクチン投与戦略の考案者であるビル・フォージ氏は、優先順位の決め方について、「独創的で道徳的な良識」が求められるだろうとしている。同氏は全米医学アカデミーによる討議の主導者の一人となっているが、「好機であるとともに重責」だと述べている。
ワクチンに関する誤報が次々と拡散され、政治問題が絡んでくることを危惧する声もあがるなか、疾病予防管理センターのロバート・レッドフィールド所長はワクチンの割り当て方について、市民から見て「公正かつ公平であり、透明性がある」ものでなければならないと主張する。
つまり、どのように決めるべきなのか。疾病予防管理センターはまず、次のような案を発表した。最も重要度の高い保健医療、安全保障をはじめとする必要不可欠な職業に従事する1200万人に、真っ先にワクチンを投与する。続いて、長期療養施設に入所中の65歳を超える高齢者や、年齢を問わず病気を抱えている人などコロナウイルスにかかると危険な人たちや、上記以外にも必要不可欠な職業に従事すると思われる人たち1億1000万人に投与する。一般市民への投与はその後だ。
疾病予防管理センターの諮問委員らは、誰を本当に必要不可欠な職業に従事しているとすべきか見極めたいとしている。カリフォルニア大学ロサンゼルス校で小児科医をしているピーター・シラギ医師は、「私自身は、重要度の高い医療従事者に該当するとは思いません」と認めている。
実際のところ、現段階における医療従事者のリスクは、パンデミック当初とはまったく違っている。現在COVID-19の治療にあたる医療従事者の多くは、最も強固な防護体制をとれている。諮問委員らは、そのほかの市民のほうがリスクは高いと指摘する。
また、医療や安全保障以外の分野における「必要不可欠な」職業とは、鶏肉加工工場の作業員が該当するのか、それとも学校の教師がそうなのか。さらに、ウイルスの影響を受けやすい人たちでは、若くて健康な人のようにワクチンの効果が現れなかったとしたら、どうすればよいのか。高齢者の免疫システムが、インフルエンザワクチンの場合のようには活性化しなかったとしたら、それは大きな懸念事項である。
黒人、ラテン系アメリカ人、ネイティブ・アメリカンの感染がとくに増えているなか、多種多様な人種を想定した取り組みをないがしろにしてしまっては、「我々諮問団が何を言っても信用してもらえない」と、諮問委員長のホセ・ロメロ医師は言う。同氏はアーカンソー州の臨時保健長を務める。
セントルイス大学のシャロン・フレイ氏は加えて、密な状態で生活している都市部の貧困層は、恵まれた生活を送るアメリカ人のようには医療を受けることができず、在宅勤務もできないことを考慮すべきだと指摘する。
ノースウェルヘルスのヘンリー・バーンスタイン医師は、各家庭からハイリスクな1人を選び出そうとするのではなく、家族全員にワクチンを投与することに意義があるのではと言う。
誰からワクチンを投与するにしても、人と人との間隔を空けるよう求めながら、ワクチンの投与を大々的に行うのは無理難題である。2009年に豚インフルエンザのパンデミックが発生したときには、順番が回ってきた市民が駐車場や保健所に家族で長蛇の列を作り、密な状態になってしまった。当局は、今回はこのような事態を避けなければならないとしている。
ワクチンの製造と流通を急ぐトランプ政権の取り組み、「ワープ・スピード作戦」では、ワクチン投与の準備が整ったところから、適切な投与量を迅速に運搬する方法を見出そうとしている。
疾病予防管理センターのナンシー・メッソニエ医師によると、ドライブスルー形式でのワクチン接種や、特設クリニックの整備など、あらゆる革新的なアイデアが議論されている。
ワクチンの有効性が立証され次第、「はっきり言えばその翌日には計画をスタートできるよう、準備を整えたいと思っています。長い道のりではありますが」と、メッソニエ氏は言う。
By LAURAN NEERGAARD AP Medical Writer
Translated by t.sato via Conyac