黒人(ブラック)の「b」を大文字に AP通信、表記法を変更

AP Photo/Jenny Kane

 AP通信は6月19日、自社のスタイルブックを変更した。激しく議論されている問題を考慮し、人種、民族、文化的な文脈で黒人という言葉を使う場合にブラックの「B」を大文字表記にする。

 AP通信の標準規格担当副社長、ジョン・ダニスゼウスキ氏は同日付けのブログ記事のなかで、今回の変更は、アフリカ系ディアスポラやアフリカに住む人を含め「黒人と特定される人々にある歴史、自己、コミュニティーについての根源的かつ共有された感覚を反映したもの」と述べている。「小文字のbで始まる黒は人ではなく色」であるという。

 同社では、先住地に住む人々を表す言葉(インディジナス)についても大文字の「I」で書き始める。

 ダニスゼウスキ氏によると、今回の改訂はラテン系(L)、アジア系(A)アメリカ人(A)、先住(N)アメリカ人(A)など以前からある識別子(冒頭の大文字)と歩調を合わせるものである。AP通信のジャーナリスト、社外団体や有識者が2年以上にわたって研究と議論を重ね、今回の決定にいたったという。

 同氏はブログの中で「表記法と言葉について議論する際には、記述にあたり包摂的であること、敬意を払わなくてはならないことのほか、言葉の進化など多くの点を考慮した。今回の変更により、こうした目的が達成されることになる」と述べている。

 AP通信は、白人(ホワイト)を大文字で始めるかどうかについては1ヶ月以内に決める予定だとしている。大文字に変更することによるアメリカを除く地域での影響が考慮される。

 白人警官がジョージ・フロイド氏を圧迫死させ、大規模な抗議活動と状況の激変をジャーナリストが取り上げるなか、黒人の「B」を大文字にするかどうかの論争がここ数週間、多くのアメリカの通信社で繰り広げられた。

 ロサンゼルス・タイムズ紙、USAトゥデイ紙、NBCニュースもすでに、大文字への変更を取り入れた。全米黒人ジャーナリスト協会は、ほかの報道機関もこの動きに追随するよう呼びかけている。

 APスタイルブックの使用規定が持つ影響力は業界ではかなり大きく、多くの報道機関、政府関係機関、広告代理店が表記指針として利用している。

 ミネアポリスの白人警官が膝で黒人男性フロイド氏の首を押さえつけ、死亡させた事件の後には全国的な抗議運動が起きたほか、警察改革をはじめ南北戦争にまつわる銅像や旗の撤去、さらには「B」の大文字表記にいたるまで、さまざまな社会的変化の勢いに拍車がかかっている。

 ジャーナリズムシンクタンク、ポインター研究所の訓練・ダイバーシティ部門長であるドリス・トゥロン氏は「この論争には長い歴史がある。黒人は以前から変化を要求していた」と話している。

 ジャーナリストがソーシャルメディアで意見を述べたり、「Black Lives Matter」のデモに参加したりすることができるかどうかなど、多くの複雑な問題に直面するようになった報道機関にとっては、大文字化は比較的容易な対応である。

 社会学者のW.E.B.デュボイス氏は約1世紀前、小文字のnは不敬と人種差別を表すと述べ、新聞が黒人(ニグロ)の「N」を大文字にするよう書簡で要求する活動を行った。ニューヨーク・タイムズ紙は1930年に提言を取り入れ、その変更は「小文字」で数世代も呼ばれていた人々を認識し、敬意を払う行為であるとした。

 1960年代に黒人至上主義運動が起こると「ニグロ」は廃れてしまい、服従を象徴する言葉になった。アフリカ系アメリカ人はよく使われたが、その表現は必ずしも正確ではない。黒人の中には、自分のルーツはアフリカではないと言う人もいるためだ。

 先週初め、AP通信宛てに公開書簡を提出したコミュニケーション論の黒人専門家は、今回の変更が「ジューンティーンス(6月19日)」になされたことに喜びを感じると述べている。この日は、155年前に奴隷状態にあったとされるアフリカ系アメリカ人が最後に解放された記念日であるからだ。

 ブルッキング研究所メトロポリタン・ポリシー・プログラムのコミュニケーション責任者、デビッド・ランハム氏は「Bが大文字で書かれていないと、失礼な感じを受ける。アフリカ系アメリカ人には文化的なアイデンティティが共有されており、それは我々が共有してきた経験を経て生まれたものだ。また、奴隷制度の結果としての地理的な歴史が消え失せることになる」と語る。

 シアトル・タイムズ紙とボストン・グローブ紙は昨年末、「B」を大文字にする変更を実施した。ボストン・グローブ紙では、ブラックという言葉は元々皮膚の色を指していたが人種や文化の象徴へと進化し、他民族の表記と同様に大文字を使用するのに値すると説明している。

 昨年、ブルッキングス研究所内で大文字の「B」を使用する取り組みの指揮を取っていたランハム氏は、AP通信が表記法を変えたことでほかの多くの報道機関や組織も同様の変更を行うと予想している。

「よく知られている通り、APスタイルブックはジャーナリズムのバイブルとみなされているため、今回の動きで巨大なドミノ倒しが起きるだろう」と話している。

By The Associated Press Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP