フランス人はなぜマスクをつけないのか? 「感染防がない」の奥にある本音
◆フランス政府の思惑
それでは、サージカルマスクの着用には、本当に意味がないのだろうか? いや、そうではないだろう。というのも、フィガロ紙は3月6日付の記事で、フランス厚生省の保健責任者ジェローム・サロモンが3月4日「新型コロナウイルスに関しては、サージカルマスクがFFP2マスクと同等の効果を持つことが科学的に立証された」と発言したことを報道したのだ。同氏の言葉は、さらに「これは、JAMA米国医師会雑誌に発表された臨床実験であり、世界保健機関が公的報告、さらにフランスの病院衛生学会が本日発表した公式見解である。また、アメリカ保健当局の公式勧告でもある」と続いている。
それまでの厚生省の主張を覆しかねないこの発言はすぐさま話題になると思われたが、奇妙なことに、その後メディアではほとんど取り上げられていない。
それどころか、フランスニュースサイト『アクチュ』が3月4日まとめたところによれば、フランス政府は、同日付で国中のマスク徴集の政令を出し、さらにそれまでは自由に買えていたサージカルマスクを、処方箋なしには購入できないものと定めた。このあたり、フランス政府の思惑を感じずにはいられない。しかも3月6日には、政府スポークスマン、シベット・ンディアイが、マスクは感染者とその世話をする人が着用するもので、健常者には必要ないものだと述べる動画をツイッターで流す念の入れようときている。
◆敗北を認めたくない反抗心
懐疑心の強いフランス人だが、ことマスクに関しては「感染予防に役立たない」という教えをうのみにする人が多いようだ。そうしてフランス人持ち前の反抗心は、マスク不足を避けようと画策する政府にではなく、病気を象徴するマスクに向かっているように見える。
つまり、彼らにとって、「マスクをしている=感染者」であり、それはすなわち危険な存在なのだ。最初に書いた「マスク差別」が生まれる土壌はまさにここにある。同時に、自らがマスクをつけることは、病気であると認めること、つまり敗北を意味するのだ。たとえるなら、歩けなくなるぎりぎりまで杖をつくのを拒む心理に似ているかもしれない。