産業用大麻の生産規制、業界に不安広がる アメリカ
1年前、アメリカ連邦議会においてヘンプ(産業用大麻)は規制対象から外れ、農作物として合法であると分類された。ヘンプ生産者や起業家らは歓喜に沸いたものの、現在、規制法案を進める連邦議員らの動向によっては経営が立ち行かなくなると不安に駆られている。
2019年にヘンプ栽培が許可された作付面積は前年の水準の450%超となり、これまでで最大の20万ヘクタールとなった。それだけに、政府が打ち立てている規則に対して強い関心が寄せられ、ヘンプ生産者や加工業者、小売業者、各州政府から規制法案について批判的な意見が殺到している。
生産者は、政府が規制を強引に推し進め、結果として多くの作物が必須検査に不適合となり、廃棄処分を強いられるのではないかと懸念している。法案を起草する米農務省(USDA)は、規制案では全ロット中20%程度のヘンプが不適合になる、と推定する。
オレゴン州グランツ・パスにある農場を家族で経営するダブ・オールドハム氏は、2019年、0.4ヘクタールの農地でヘンプを栽培した。「生産者を支援することが農務省の役目だ。痛めつけることではない。現在作成が進められている規則は生産者にとって痛手となるものだ。多くのことに振り回されているため、皆リーダーシップを求めている」と話す。
USDAは批判に対して反応を示していないが、パブリックコメント受付期間を1ヶ月延長し、1月29日までとする異例の措置を取っている。同省はAP通信に対し、2021年に施工される最終規則を公表する前に、今期の栽培シーズンから得た情報を分析するつもりだと述べている。
すでに施行された連邦法のもとで、ヘンプ栽培の試験的プログラムを行っている州の農業局は、USDAに宛てた公文書にて意見を提示している。
「ヘンプを合法とする州は46あり、どの州からも、規則の内容について何らかの懸念が示されていることをお伝えしたい。見解はそれぞれ異なるかもしれないが、どの州においても同様に不安が広がっている」と、州農業省全国協会(NASDA)で公共政策の責任者を務めるアリーン・デルーシア氏は述べる。
不安の多くは、連邦政府が計画するTHCの検査方法に関することである。THCは、マリファナとヘンプに含まれる化合物であり、使用者を「ハイ」にする作用がある。連邦政府やほとんどの州では、植物に含まれるTHC濃度が0.3%以下という微量である場合、ヘンプであるとみなしている。0.3%を超えるものについてはマリファナとされ、連邦法下では違法である。
大麻にはさらにもう一つ、ヘンプ栽培が急増してきた要因となる成分が含まれている。カンナビジオール、もしくはCBDと呼ばれるこの成分は、健康面やウェルネスへの効果を持つとされ、食品や飲料、ローション、歯みがき粉、ペット用おやつにいたるまであらゆる商品へ添加され、販売されている。
CBDの効能として、苦痛の緩和、睡眠の改善、そして不安の軽減がもたらされると信じる人は多い。しかし、CBDの作用による健康への影響について十分に認識されていないこともあると科学者は警鐘を鳴らす。アメリカ食品医薬品局(FDA)は2019年、CBDを健康補強表示に用いたことで20数社に対し忠告を行った。
大麻産業の動向を追跡し、マーケティング分析を行うBDSアナリティクス社による最近の調査によると、CBD市場はそれでもなお3桁の成長率で伸びており、売上高は2024年までに200億ドルに達する可能性もあるという。
ヘンプ栽培の認可を受けている生産者1万8,000戸中の約80%がCBD市場に参入していると、ヘンプを推進する団体「ボート・ヘンプ」の代表、エリック・スティーンストラ氏は話す。残りの20%は、織物や建築資材に使用される繊維の原料として、または健康食材となる種子を摂取するために、ヘンプを栽培している。
ただし、ヘンプは気まぐれな農作物であることが広く知られている。日光や湿度、土壌に含まれる成分などの条件によってTHCとCBDの比率が決定される。適切な収穫方法を選択することが、THC濃度を確実に許容範囲内に抑えるためには不可欠である。
USDAによる規則案では、生産者には柔軟な選択肢が与えられていない。収穫はTHC検査から15日以内に行わなければならず、サンプルはアメリカ麻薬取締局(DEA)認定の検査機関に送付しなければならない。また、THC濃度の最も高い、植物の頂部よりサンプルを採取することが決められており、最終的な成分濃度にはTHCのみでなく、精神活性物質ではないTHCAも含められる。
これら2つの成分を合わせて0.3%を超えた作物は廃棄処分となる。0.5%を超えた場合は、「過失による違反行為」であるとみなされ、その違反を繰り返す生産者には、ヘンプ栽培の禁止処分が科せられる可能性もある。
さらに、いくつかの州においてヘンプ生産者が加入している連邦農作物保険の試験的プログラムでは、THC濃度が限度を超過していたための廃棄作物については、保険の適用は認められないとの規定がある。
これらの規定に対し、2014年改正農業法において承認されたヘンプ栽培の試験的プログラムに関わる生産者や各州から不安の声が寄せられている。THC濃度が0.3%以上でも合法としている州もあれば、THCAを含有濃度の計算に含めない州もある。そして多くの州では、THC検査終了後、生産者が収穫により長い期間を取ることができるよう認めている。
使用者を「ハイ」にさせるTHC濃度を低く抑えたままで栽培工程により柔軟性を持たせられるように、生産者は政府に対し、THC濃度の限度を1%に、そして収穫期間を30日間とするよう働きかけている。
「ザ・ブラザーズ・アポセカリ―」という銘柄でCBD入りの茶葉やカプセルを兄弟で販売しているジェシー・リチャードソン氏は、「規制法案は、農作物の実態を反映しているようには見えない。連邦法の基準に従ってヘンプの花を生産できなければ、CBDオイルは市場から消えてしまうだろう」と話す。
生産者はまた、THC検査がDEA認定機関のみでしか実施できないという規則案に不安を抱いている。そのような機関は実に少なく、州によっては1ヶ所しかなく、限られた短い収穫時期に何百戸もの生産者に対応することになる。
昨年の秋、ノースカロライナ州にある農家の3代目サマンサ・フォード氏は、THC検査の結果が出るまで2週間待った。その後45日間かけて、0.4ヘクタールの農地に育ったヘンプを手作業で収穫した。
「私の場合は小規模栽培でしたが、15日間という期限は現実的ではありません。広大な土地で収穫を行う生産者については想像もつきません」と、フォード氏は話す。
規則案が州政府にもたらす作業負荷についても懸念が高まっている。多くの場合、無作為に抽出されたサンプルを用いてTHC濃度が検査されるが、USDAはヘンプのロット毎に5サンプルの提出を求めている。全米農業局団体のデルーシア氏は、州の農業省にとって重荷になると述べる。
デルーシア氏によると、連邦政府からの規則があまりにも煩雑で、高額な費用を伴う内容である場合、州によってはヘンプ栽培プログラムを中止することもあり得るという。その場合、生産者は栽培許可をUSDAに対して申請しなければならず、政府当局の対応方針や国全体の栽培許可プログラムにかかる費用については、現時点で明確ではない。
2018年度改正農業法では、USDAは州のヘンプ栽培プログラムを承認することが義務づけられていた。ルイジアナ州、オハイオ州、ニュージャージー州の3州が先月初めて承認されたが、その計画は、最終的な規則が定められた後に修正する必要があるだろう。
2021年以降に、「現在規則案を起草している州が、後に修正を迫られ、改正に追われる姿は見たくない」と、ボート・ヘンプのスティーンストラ氏は述べる。
By GILLIAN FLACCUS Associated Press
Translated by Mana Ishizuki