悪化の一途を辿る香港情勢 暴力の常態化、北京の余裕

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◆失われる暴力への躊躇
 香港では、「暴力への躊躇」が失われてきているように感じる。最近になって、香港警察の実弾使用という報道を我々は何回聞いただろうか。以前、香港警察のなかでも「実弾は最後の手段」という認識だっただろうが、いまでは「実弾は通常手段」という認識が広がってきているように思う。

 最近になっては、イラクでも現職のアブドルマハディ政権に対する抗議デモが首都バグダッドから南部を中心に拡大し、これまでの死者は300人を超えている。中東・アフリカの治安情勢を日々分析していると、最近の香港は、中東・アフリカで発生するデモや暴動に様相が似てきている。香港というと、自由と民主主義が守られ、治安も良く、経済も発展した「成熟都市」のイメージが先行するが、香港警察が意識的にも脆弱になり、デモ隊も何が目的で何が手段かを区別する冷静さを失っている。

◆北京に広がる余裕の余地
 悪化する香港情勢を北京指導部はどう思っているのだろうか。国際社会からの非難の声はできるだけ回避したいという思いはあるだろうが、余裕の余地が広がっていることは確かだろう。

 長年、香港は世界の金融センターとして中国経済にとってきわめて重要な存在だったが、中国は世界第2位の経済大国にまで台頭し、北京と香港の優位性は大きく変わっている。近年、香港から電車で30分ほどの距離にある深センの近代的発展が著しいが、北京の思惑のなかには深センの発展を印象づけることで香港にプレッシャーをかける狙いも見え隠れする。

 また、北京は、経済圏構想「一帯一路」を軸にアジアやアフリカ、中東や中南米の国々への経済支援を強化し、政治的な影響力を各地で高めているが、仮に香港で天安門事件を思わせる大きな衝突があったとしても、「米国など一部の国以外にどの国々が北京を非難できるのか」という余裕も生まれてきている。

Text by 和田大樹