なぜ中国人は香港デモを批判するのか?「一つのストーリー」だけの報道と教育
◆教育の賜物? 別の視点を持てない若者
ロサンゼルス・タイムズ紙(LAT)に寄稿した、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国研究者Yaqui Wang氏は、海外で学ぶ中国人学生たちが、各地で香港デモを批判する反民主主義集会を起こしていることに注目する。同氏によれば、中国人留学生は世界に150万人いるとされ、いまだに中国の厳しい検閲を受けたネットやメディアの情報に頼っているということだ。
検閲された情報に囲まれて育ってきた彼らには、これまで学んで信じてきたことと相いれない考えを処理するのは容易ではない。好奇心を持ち、手の加えられていない情報を常に読み、内省的思考で対処してこそ、別の視点が芽生えるのだが、そのどれもが中国では奨励されていないと同氏は述べる。海外にいても香港デモを非難するのは、母国の統一を守り、中国を分離する試みに反対する中国政府の教えが浸透しているためで、政治的論争となっている問題を、学生たちはこのスタンスでしか議論することができないとしている。
さらに、海外にいる中国人には、「中国政府に洗脳されている」という想定がつきまとう。これを攻撃と受け止め、「西洋は偏見に満ち敵対的」と中国で教えられたことを再確認してしまう者もおり、中国政府支持につながってしまうという。
◆良き市民は反論せず 懸念される思考停止
ただ、香港デモを支持する本土の中国人がいないわけではない。サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙によれば、香港版Redditである、LIHKGフォーラムには、中国の身分証明書やパスポートの写真つきで、デモ隊を応援する手書きメッセージも寄せられているという。もっとも、匿名で同紙のインタビューに答えた本土の市民は、香港について語ることはいまや物議を醸すことになるため、香港への同情の気持ちはあるが、それは隠しておくと述べている。行動に表せないが共感はするという人がある程度いる可能性もありそうだ。
前出のWang氏は、自分自身の気持ちを述べたいというのは人として自然なことだとするが、自分の考えを持ち、それを口に出すことが深刻な報復を呼ぶということを長年学んでいれば、人は次第に自分で考えることを避けるようになると述べる。アメリカに来たばかりの自分も中国の人権侵害を知らなかったという同氏は、長期的に、いま海外にいる中国の若者たちが滞在国の指導者の助けを借りて開眼し、帰国後新しい方向に国を導いてくれることに期待している(LAT)。
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