プーチンの終わりか、政権の思う壺か? 続くロシアの反政権デモ

Alexander Zemlianichenko / AP Photo

◆将来への不安……独裁政権下では未来なし
 モスクワの世論調査会社Levadaのデニス・ヴォルコフ氏は、抗議活動はロシア人の政府に対する深い失望を表すものだとしている。ロシア経済は、腐敗と石油や天然ガス収入への過剰な依存で低迷。生活水準を上げるというプーチン政権の約束も実現していない(WSJ)。

 2014年のクリミア併合時は、愛国心の高まりでプーチン大統領の支持率は90%に達したが、昨年には64%にまで低下した。ロシア人の収入は5年連続で減少しており、アメリカやEUのクリミア併合による経済制裁も重い負担となっている。また、実質的に公的給付削減を意味する、定年を延長する法案が可決されたことも国民には不評だ(ブルームバーグ)。

 メディア統制は厳しいが、市民は政府の腐敗や失策、そして世界からの孤立に対する不満を表し始めているとVoxは述べる。とくにプーチン時代しか経験がない世代は、独裁で政治的選択もなく、景気も悪いいまの体制が続いていいのかと問い始めていると、外交政策の専門家アンジェラ・ステント氏は述べる。今年のデモは、若い世代が中心となり、リーダーもなく、自発的、草の根的なものだとし、香港のデモとの共通点を指摘している(Vox)。

◆敵を徹底排除 さらなるプーチン続投も?
 WSJは、ほとんどのデモ参加者は特定の要求を持たないと述べる。よって特別な妥協もせずに、ガス抜きで終わることを体制側は望んでいるようだとしている。ブルームバーグも、体制側は想定した妥協と厳しい取り締まりで、市民の怒りを抑える自信を持っていると述べている。

 ただ、モスクワ市議会に数人の反体制派がいても大した脅威にはならないはずなのに、体制側が今回なぜ徹底して野党候補を排除しようとしたのか疑問だとVoxは述べる。ジャーマン・マーシャルファンドのエブリン・ファルカス氏によれば、過去には、プーチン政権は少しぐらいの反体制派の出馬は許し、裏で操作して彼らを排除してきたということだ。

 ブルームバーグは、モスクワ市議選は2021年の議会選挙のウォーミングアップとも見られていると指摘。憲法改正によって2024年の任期切れ後のプーチン大統領続投を狙っている現政権にとって、モスクワ市議選の投票をコントロールすることが重要だと述べている。実際のところ、有望な野党政治家の逮捕と有罪判決も続いており、政権にはデモも好都合ということだ。

 前出のステント氏は、プーチン政権の終わりは近づいていると考えるべきではないと述べており、ロシアの民主主義への道のりはまだまだ長いことを示唆している。

Text by 山川 真智子