不倫、同性愛に石打ち死刑、ブルネイ 国際社会から激しい非難の声

AP Photo / Vincent Thian

 ブルネイで3日、同性愛者間の性行為や不倫を働いた犯罪者を投石の刑によって死刑に処すると定めた新しいイスラムの刑法が施行された。東南アジアの小国であるブルネイに対し、世界中の国々、人権団体、および著名人から激しい非難の声が上がっている。

 人口約43万人、国民の3分の2がイスラム教徒である豊かな産油国、ブルネイのハサナル・ボルキア国王は2014年、イスラムの影響力を強化するためにシャリア刑法を制定した。そのシャリア刑法に、投石の刑を新たに定めた条項がこのたび追加された。

 ブルネイでは、すでに2014年以前から同性愛を違法とし、最大10年の禁固刑を科してきた。シャリア刑法の第1段階は、未婚で妊娠した場合や金曜礼拝を怠った場合、罰金や禁固の刑を科すと定めている。

 しかし、今回の新たな法律では同性愛の性交で有罪となった場合、石打ちによる死刑やむち打ちの刑を科す場合があると定めている。また、不倫行為に対しては石打ちによる死刑が科せられる場合があるほか、窃盗犯については初犯の場合は右手を切断し、2度目の場合は左足を切断する刑罰を科すとしている。この刑法は非イスラム教徒も対象とし、青少年や旅行者にも適用される。

 当局からの報復を恐れ、クンという匿名を希望した性的少数派コミュニティに属する23歳のメンバーは、「我々はブルネイに在住している間、自分たちの性的なアイデンティティはタブーであり、他言するものではないことをすでに理解していた。この刑法が制定される前から、我々は軽視されていると感じていた。新たな刑法が発効され、さらに身を潜めていなければならないと感じる。潜在的に我々を迫害しようとする人々にとっては、自分の倫理観を押しつけて嫌がらせを行う機会が増えたことになる」と嘆く。

 ジョージ・クルーニー、エルトン・ジョン、エレン・デジェネレスら著名人は、この新しい刑法に反対を表明し、ハサナル国王とつながりを持つアメリカとヨーロッパの9つのホテルへの宿泊をボイコットするよう呼びかけた。

 クルーニー氏は、「果たして我々は、何の罪もない市民を殺害するための資金を提供して良いのだろうか?」と『デッドライン・ハリウッド』に投稿した。

 クルーニー氏は、「殺人政権」を恥じ入らせることができなくても、「その政権と取引のある銀行、金融機関、および団体」を恥じ入らせることはできると述べている。

 ハサナル国王が所有し、パリにある2軒の高級ホテルの利用客らは、ボイコットの支持を表明した。

 フィリップ・メナジー氏は、ル・ムーリスホテルの屋外で、いままで15年間このホテルの常連客だったが、もうここでは気持ちよくスパを楽しむことができなくなったと語る。「ル・ムーリスホテルの従業員は皆とても素敵で、私は彼らが大好きだ。そんな彼らの職を守るために、私はもうこの野蛮なホテルの常連客であり続けることはできない」。

 ノルウェーからの旅行者であるアンジャ・アンダーソン氏は、もしプラザアテネの宿泊予約をする前に今回のボイコットのことを知っていたら、別のホテルに泊まっただろうと悔恨の思いを口にする。

 ブルネイ国内では、この新しい刑法に対する反対の声は上がっていない。ブルネイでは、国王が絶対的な執行権限を持つ国家元首として君臨しており、国王の政策が公に批判されることは極めてまれである。

 1967年以来、ブルネイを統治しているハサナル国王は以前、シャリア刑法は神が与え給うた「特別な導き」の一つとしてみなされるべきであり、ブルネイの「偉大な歴史の一部」になるだろうと述べている。

 4日、国連は談話を発表し、アントニオ・グテーレス事務総長は「いかなる形態の残虐な刑罰にも明確に反対を表明し」、ブルネイで施行されたこの刑法は、「どのような場合でも一切の差別なく、すべての人権は尊重されるべきである」という原則に対する明らかな違反だと確信していると述べている。

 グテーレス国連事務総長の報道官であるステファン・ドゥジャリク氏は、「人々が、性的な指向、性の同一性、および性徴に基づく犯罪化、偏見、および暴力に直面する限り、我々はこれらの違反に終止符を打つ努力を倍加しなければならない。誰もが自由に尊厳と権利を平等に享受し、生きる権利を有する」と語る。

 イギリス、ドイツ、フランスに次いでアメリカが2日に加わり、ブルネイに対して新刑法施行の中止を勧告している。

 アメリカ国務省のロバート・パラディーノ副報道官は声明で、「アメリカ合衆国は、暴力を受ける危機にさらされている女性、宗教的および民族的な少数派、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、そしてインターセックスの人々を含む社会的弱者を標的にした暴力、犯罪化、および差別に強く反対する」と述べている。

 マレーシアやインドネシアなど東南アジアのブルネイの隣国には、男性の同性間の性行為を禁止する法律を施行している国もある。それらの国々は沈黙を貫いた。しかし、イスラム教徒が過半数を占める近隣の他国の性的少数派に属する市民は、罰則の適用範囲が広がったことに懸念を抱いている。

 マレーシア国民3,200万人の3分の2近くはイスラム教徒であり、彼らの家族、結婚、および個人的な問題についてはイスラムの法廷が支配する。昨年、イスラム教徒の2人のマレーシア人女性が互いに性行為を試みたとして、イスラムのシャリア法の下で有罪判決を受けた。

 国連人権高等弁務官事務所のミシェル・バチェレ弁務官はブルネイ政府に対し、「この極めて厳しい新たな刑法の発効を停止」するよう求めた。

 バチェレ弁務官は声明を発表し、「宗教に基づくいずれの法律も、多数派の宗教を信仰する人々の人権と同様に、少数派の宗教の信仰者や信仰を持たない人々の人権を侵害してはならない」と述べている。

 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのアジア局局長代理、フィル・ロバートソン氏はハサナル国王に対し、「手足の切断、投石の刑、および権利を侵害するすべての条項と刑罰を直ちに中止する」ように求めた。

 ロバートソン氏は声明の中で、「ブルネイの新たな刑法は徹底して野蛮であり、たとえ犯罪に対してであっても科されるべきではない時代遅れの刑罰を科そうとしている」と述べている。

 人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルでブルネイの調査を行っているレイチェル・チョア=ハワード氏は、この「残忍な」な刑法を非難し、国際社会に向けてそのような法律を糾弾するように求めた。

By ANNABELLE LIANG Associated Press
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Text by AP