出産直後の「完璧おしゃれ」賛成? 反対? メーガン妃にも注目
ダニエル・バヤード・ジャクソン氏は、出産に備えて支援チームを組んでいた。ドゥーラ(産前産後ケアを行う専門家)の派遣を依頼すること、分娩中にお願いしたいサポートの詳細、そして部屋の照明の明るさについてはすでに決めていた。
メイクアップアーティストの予約は見送った。
「料金を色々と調べたりもしましたが、何かどうでもよいことのように感じたのです。とてつもなく素晴らしい出来事を終えたあとに、このようなことについて悩みたくないと決心しました」と、フロリダ州タンパ在住のジャクソン氏は述べる。
ソーシャルメディアにどっぷり浸かった今日の社会において、妊娠中の女性に着目した議論がある。赤ん坊が自分の体から出てまもなく、しっかり身支度をして完璧なおしゃれをするかどうか。もしくは、シアトル界隈在住の母親、ロビン・ルチンスキー氏が、4番目の子どもが転がり回っていた頃までしていたようにするのか。
「化粧品は何一つ荷物に入れなかったわ。持って行ったのは歯ブラシとリップクリームだけでしたよ」。
イギリス王室のキャサリン・ミドルトン妃が出産の度に(3度とも!)ヘアスタイルを整えていたことは記憶に新しい。そして、新しいロイヤルファミリーが間もなく誕生する。その中で、分娩中や出産後わずか数時間以内で完璧に身支度することについての議論が、女性たちの前に立ちはだかる。
「誰と同じ時期に妊娠したくないってわかる? メーガン・マークル妃よ」と話すのは、アメリカの女優でありコメディエンヌのエイミー・シューマーだ。妊娠中ずっと続いたつわりに苦しみ、Netflixの新作コメディ公演を途中でキャンセルした。「15cmのハイヒールなんて履いて、素敵な洋服を着たりしているんだもの」。
出産後の完璧な身のこなしについては、メーガン妃がキャサリン妃に追随するかどうか、まだわからない。とはいえ、この4月に産まれるロイヤルベビーを世界に向けてお披露目する時には、少なくともメイクアップはきちんとするのだろう。
そしてメーガン妃がパーフェクトな装いで登場すると、「反・完璧におしゃれする派」からの関心はおそらく高まる。
「出産を終えたばかりの母親たちは美しいと思います。乱れた髪で、シミがあったりノーメイクだったり。また、赤ちゃんとのスキンシップや授乳のために上着がはだけていたり。現実感のある出産の様子や産後の出来事にスポットを当てるという、最近人気の新生児フォトをとても気に入っています。早く元に戻らなくては、というプレッシャーは全て手放すよう、クライアントに提言しています」と、周産期の女性を対象にしたカウンセラーでテキサス州オースティンに住むカーステン・ブロナー氏は話す。
しかし、きちんと身支度する女性たちを裁くことは禁物である。院内にスパを併設する病院があり、ヘアやメイク、ネイルのスペシャリストを依頼する女性が多くいる状況で、出産後の母親たちに最高の気分をもたらすものについての議論は諸刃の剣となる。
2人の子どもを出産したジュリアン・ファレル氏の妻にとって、きちんと身支度することは、古風なイギリス人である祖母をはじめとする訪問者を、共に歓迎する気持ちを表すものであった。
ファレル氏の経営する「ジュリアン・ファレル・リストアサロン&スパ」は、ニューヨークにあるおしゃれな通り、パーク・アベニュー沿いにあるロウズ・リージェンシー・ホテル内にある。同氏は2001年より、病院内で妊産婦のためのサービスを提供している。現在のサービス料金は、ヘアブロー、メイクアップまたはネイルアートのいずれかで320ドル(約35,000円)というものから、これら3点全てを最高レベルのデザインと技術をもつスペシャリストが担当するもので2,000ドル(約22万円)だという。
「大抵の場合、メイクアップ、ネイルアート、ヘアブロー、これら3つのサービスが求められます。このようなお客さまはご自身の容姿に強いこだわりを持っています。よりお金に余裕があっても、見た目を気にしない人々もいます。人を招いた時にどのようなことに目を向けるよう育てられてきたか、ということでしょう」とファレル氏は述べる。
ファレル氏の顧客のうち、病院での出産を控えている女性たちは月に10名から15名だ。
マンハッタンに住む弁護士のドナ・イップ氏(38)は、2013年に第1子を、2015年に第2子を出産する際、分娩室でファレル氏のスタイリストであるジャクソン・シモンズ氏によるサービスを受けた。頭部マッサージ、ヘアブローとセット、そしてメイクアップをお願いした。
「いきんでいる時には席を外してもらいました」と、イップ氏は笑いながら話す。「誰にだって気もちを楽にさせるための方法はあると思います。気分が和らいだり、また、心躍るような時期にも慌ただしい時や不安を抱えていたりしている時期にも、わずかでも気持ちが安定するのであれば、やってみるべきです」と言う。
ペンシルベニア州スクラントン郊外に住むブレンダ・コスチューク氏は、現在3歳になる2人目の子どもを自然分娩で出産した。
「みんなが望んでいるのは、私たちが耐え抜いた現実が何一つ描かれていない、ソーシャルメディア上のパーフェクトな写真なのです。そんな写真は、ソーシャルメディアにも、雑誌の表紙にも、至る所にあります。2人目の子どもを出産する時、病院に向かう前に私はメイクを念入りにしました。1人目の時、「アフター」写真がそれほど完璧に撮れなかったため、今回こそはと思ったのです。現実はというと、1時間いきみ続けた結果、汗だくになり、赤ら顔で、マスカラは溶けて顔の方ににじみ出ていました。思い切ってメイクを諦めていた方が、まだ良い写真が撮れたのでしょう」と、コスチューク氏は話す。
それでもなお、インスタグラムのハッシュタグ「#takebackpostpartum(産後の思い出)」は人気がある。
「女性たちはむしろ、自分の体を受け入れることに前向きです。産後、常に見栄え良くしておくことやソーシャルメディア受けすることに義務感を抱いていません」と、ニューヨーク在住のマリアン・ライアン氏は述べる。妊娠中から出産後の女性を対象に理学療法を行っている。
どのソーシャルメディアも新米ママたちの自信喪失をあおり、母親や赤ちゃんにとって良いものにはならない、と話すのは、『The FAB Mom’s Guide: How to Get Over the Bump & Bounce Back Fast After Baby(「素敵な」新米ママのためのガイドブック―産後のポッコリおなかを解消し、早く元に戻す方法)』という題名の本を、皮肉を交えて書いたジル・シモニアン氏である。
「出産後数日経って、気分を和らげるためにヘアブローをしたいのであれば、どうぞやってください。絶え間ない写真の投稿、メッセージ、シェアしたりされたり…… 私はこのようなことを本当に腹立たしく思い、苦痛を覚えます。新たに母親となった女性たちにとって健康的なスタートにはならないでしょう」と、シモニアン氏は話す。
さらに同氏は、出産後30日間はおしゃれをすることから完全に距離を置くことに賛同する。
「このところ、インスタグラムによって母親が2つのグループに分断されています。1つは、あくまでの素のままの自分、とても私的であり個人的なことを表現したいグループ。もう1つは演出された写真撮影でのモデルを気取りたいタイプのグループです」と、シモニアン氏は述べている。
By LEANNE ITALIE Associated Press
Translated by Mana Ishizuki