米専門家、胸部インプラントとがんを結びつけるのは早計と指摘

AP Photo / Donna McWilliam

 アメリカでは長年にわたり、胸部インプラント手術に使われるある種のインプラント素材が特殊なタイプのがんを引き起こすと指摘されてきた。しかしながら、アメリカ政府の医療諮問委員らは3月25日、そのように断定してそのインプラントを禁止するのは時期尚早であり、問題を理解するためにはさらに多くの情報が必要だと発言している。

 アメリカの食品医薬品局(FDA)の諮問委員会は、過去数十年間にわたって安全上の懸念が指摘されてきたインプラント素材のリスクに関する最新の研究を精査し、その結果、胸部インプラント手術に関する即時の制限措置をとることは推奨しないとの立場を示している。

 FDAは、インプラント手術によって乳房周囲の瘢痕組織内に他ではあまり見られないタイプの特殊なリンパ腫が発生する可能性を示す新たな科学的知見に対し、どのように対応するかという問題に取り組んできた。FDAはこのタイプのがんを全世界で450例確認し、そこには12名の死亡例が含まれていたという。そのほとんどのケースで、インプラントのずれを防止し、瘢痕組織を最小限に抑えるよう設計された特定のテクスチャータイプのインプラント素材の関連が報告された。

 しかし、形成外科医や癌の専門家らで構成する19名のパネリストたちの大半は、市場からその製品を排除するのは時期尚早だと述べている。

「例えて言えば、有害だと指摘された甘味料を1種類、市場から排除したとして、その代替品がさらに有害であるという状況がはたして好ましいのか? という話です」と、ニューヨークのワイルコーネル医科大学の生物統計学者、カーラ・ボールマン氏は語る。「何がそれに代替するのかを把握しないまま条件反射的に排除した場合、私たちはさらに困難な状況に陥りかねません」。

 このタイプのがんの発症頻度は、女性3,000人から3万人に1人と推定される。このがんの進行はゆるやかであり、通常はインプラントを取り除くことによって問題なく治療することが可能だ。FDAは、現在アメリカ市場の大部分を占めるスムースタイプのインプラントが関連する疾患の報告も受けていると述べ、また別のパネリストは、テクスチャータイプのインプラントの禁止は「行き過ぎた過剰な対応」と言う。

 しかしながら、諮問委員の全員がその意見で一致したわけではない。消費者を代表するある委員は、乳がん手術後に乳房の再建を目的にインプラントを身体に入れることで、女性たちが2度目のがんに直面するリスクを強調した。

 委員の一人であるロベルタ・ブルマート氏は、「この製品には非常に大きなリスクがあり、市場から排除することが必要です」と発言し、この議論を公聴していた数十人の女性たちから喝采を浴びた。

 アメリカでは毎年、約40万人の女性が胸部インプラント手術を受けており、そのうち10万人は乳がんの手術後にこの施術を受けている。

 4月2日には、諮問委員会が胸部インプラントを長期的に使用した際の慢性疾患のリスク特定とその研究についての勧告を行う予定だ。これまで何千人もの女性たちが、自分たちの身内に入ったインプラント素材が原因で、慢性関節リウマチ、慢性疲労、筋肉痛など、がん以外の慢性疾患を発症したと批判の声を上げている。

 患者およびその支援者らは、最近の研究を引き合いに出し、インプラントに対する新たな警告と制限を行うよう求めている。

「私たちの声を無視しないで下さい。私たちが受ける被害は現実のものです」と、サウスカロライナ州チャールストン在住のホリー・デイビス氏は言う。

 現在60歳のデイビス氏は、2002年に2度の乳房切除手術を受けた後、シリコンゲル充填のインプラントの挿入手術を受けた。それ以来、慢性的な痛みと脱毛、発疹に悩まされ、さらには記憶喪失までも経験した。デイビス氏は2017年にインプラントを除去し、その際、彼女の体内でインプラントが破裂していた事実を知った。除去後には、彼女の症状は治癒したという。

 デイビス氏と他の患者らは、今後インプラント手術を受けることを検討しているすべての女性たちに向けて、標準化されたリスク情報を開示するよう、FDAがインプラントメーカーに対して命じることを求めている。

「すべての女性が、自分たちが何に関わろうとしているのかをきちんと知る必要があります。手術を受けたあとに驚くようなことがあってはなりません」とデイビス氏は話す。

 アメリカでは、インプラント手術を受ける女性のほとんどが、シリコンゲル充填のインプラント素材を選択している。この素材を使えば、生理食塩水充填のインプラントよりも自然な胸の形を作れると考えられているからだ。どちらのタイプも、シリコンの外殻構造を持つ点では共通している。

 委員らはまた、動物実験などを根拠に、インプラントから漏れ出すシリコンが場合によっては特定の患者の免疫系に障害を引き起こす、あるいはその機能を損ねる可能性があるという仮説を研究者らから伝えられた。

 1992年にFDAは、乳がん、全身性エリテマトーデスその他の疾患を引き起こす恐れがあることを理由に、シリコンゲルのインプラントを市場から一時的に排除した。ところが、一連の研究によりインプラントの健康被害の懸念がほぼ払拭されたとして、規制当局は2006年になって同製品の市場流通を解禁する決定を下した。

 しかし、3月25日の会議の中ではそのような研究に批判的な立場の人々から、研究の不備を指摘する声が上がった。

「当時の研究はそれほど質が高いものではなく、稀にしか発生しない疾患を正しく定義するのに十分な統計学上の有意性も持っていませんでした」。そう語るのは、非営利団体「全米健康研究センター」代表のダイアナ・ズッカーマン氏だ。同センターは昨年、胸部インプラントのリサーチに関する分析を20件以上発表している。その上で、研究スケールが小さすぎる、または研究期間があまりにも短い、ないしは、健康問題を発生させうる長期にわたってインプラントを体内に入れていた患者をターゲットにしていない、などの問題が、事実上すべての研究において確認されたと結論づけた。

 FDAは自らのウェブサイト上で、結合組織病などの慢性衰弱性疾患と胸部インプラントとの間には「明白な関連性」は認められない、と記している。

 ところが、3月初めになってFDAは方針転換を示唆する動きをみせた。胸部インプラントや金属製人工股関節その他の器具に使用される特定の素材が、患者に健康上の問題をもたらす可能性があるかどうかについて調査を開始する、との声明を出したのだ。

 FDAは声明の中で、「症例として数は限られていますが、一部の個人が特定の物質にさらされることにより免疫炎症反応を起こす傾向を示唆する最新の証拠があります」と述べている。

By MATTHEW PERRONE AP Health Writer
Translated by Conyac

Text by AP