NZ銃撃、ネットの暗部から生まれた凶行か 犯人の「足跡」から見えるもの
ニュージーランドの銃撃犯は、ネット時代にふさわしい襲撃を周到に作り上げた。彼は虐殺模様をライブ配信し、よく知られたミームのスローガンを叫び、地下のネット文化に足を踏み入れた人ならわかる内輪ネタを散りばめた長文の犯行声明を投稿した。
一連の行動により、3月15日にクライストチャーチのモスクを襲撃したブレントン・ハリソン・タラント容疑者は、過激思想を増幅するオンラインコミュニティに訴えつつ大量殺人を実行した人物となった。
2014年には、エリオット・ロジャー容疑者がカリフォルニア州アイラビスタで6人を殺害する前にネットに動画を投稿し、怒りにみちた長文の声明を流した。同容疑者は後に、「インセル」や「インボランタリー・セリベイト(不本意の禁欲主義者)」として知られ、女性への暴力を訴えることもある女性嫌悪のオンライン集団とつながりがあったことが判明した。昨年には、ピッツバーグのシナゴーグで11人を殺害して起訴された男が、白人至上主義者の間で人気のソーシャルメディア「ガブ」に脅迫文を投稿した。
実社会、ネット上を問わず、過激な理想を掲げて拡散させるのは特に目新しいことではない。こうした思想を語りたいと思う人は同士と出会うものだと、ブルッキングス研究所シニアフェローのダニエル・バイマン氏は話している。以前には小さな集団が現実世界で出会うことがあったかもしれないが、今ではネット上で大人数の集団を見つけ、すぐにでも自分の考えを強化し、奨励するようになっている。
バイマン氏によると、こうした人々は現実世界では尻込みすることでもネット上ならできてしまう。例えば、パーティーでは言い寄れない異性にメールを送信するといった無害なものから、過激思想や暴力の情報を共有、強調、拡散する行為に及ぶ。
「ネットだと大胆になれる」とバイマン氏は言う。
ネット検索を活用して、ライブ配信された動画と掲示板「8chan」に掲載された同一ユーザーの投稿が結びつけられた。そのサイトは、主流のソーシャルメディアに不満を持つ人が過激で人種差別的、暴力的な意見を投稿するウェブサイトという暗がりの場所だった。
タラント容疑者の犯行声明は15日、8chanで広まった。74ページに及ぶ長文の声明文には一部矛盾もあるとはいえ、白人至上主義の考えを表明している。この声明文については、2011年に77人を殺害したノルウェーの右翼過激派アンネシュ・ベーリング・ブレイビク容疑者が書いた1,500ページの犯行声明との共通点を指摘する人もいる。
タラント容疑者の犯行声明は、皮肉交じりの冷笑を交えて、誰でも知っているネット上のテーマと見解を「釣る」ことで、彼が参加していたオンラインコミュニティを楽しませる意図があったようだ。
「お前はビデオゲーム、音楽、文学、映画で暴力や過激思想を教わったのか」とタラント容疑者は自分の書いた文で自問している。
「そうだ、スパイロ・ザ・ドラゴン3で民族国家主義を学んだ」と皮肉を込めて書いている。彼が話しているのは、対象年齢10歳以上のソニー・プレイステーション用ビデオゲームのことだ。
「フォートナイトは、自分が殺人者となって敵の死体の上でフロスダンスをする訓練になった」と続けた。古典的な釣り行為をすると、「違う」と述べてすぐに自己否定した。フォートナイトとは人気のオンライン戦闘ゲームのことだ。
マイアミ大学法学部教授でサイバー市民権イニシアティブ会長を務めるメアリー・アンネ・フランク氏は、タラント容疑者の声明と襲撃事件を受け、ソーシャルプラットフォームをさらに監視すべきだと主張している。
同教授は「犯人がネット上で思想を急進化させたのは明らかだ。内輪ネタやミームを交えてチャットルームや掲示板で行われる会話によって、この空間である種の過激な人物が育てられている側面がある」と語る。
とはいえ、今回の犯行に至った要因をネットでの行動に帰するのは難しいかもしれないと、ドレクセル大学法学部のハンナ・ブロック・ウェーバー教授は話している。「実際に暴力行為を引き起こすプロパガンダや暴力的な発言が持つ役割を、社会は十分に理解しているとは思えない」。
クライストチャーチにある2ケ所のモスクを襲撃する模様をライブ配信した動画の中で、犯人は「お前たち、ピューディパイをチャンネル登録するのを忘れるな」と述べている。彼がここで話題にしているのは、人気のユーチューバー、フェリックス・シェルバーグ氏のことだ。反ユダヤのジョークとナチスのイメージを取り入れた動画で物議をかもした人物である。
だがここでも、タラント容疑者の発言は分かりにくい。ピューディパイを世界最多の登録者を持つユーチューバーへと押し上げた人気のネットミームを繰り返していたからだ。シェルバーグ氏は15日のツイートで今回の事件を非難しつつ、自分の名前が使われることに「辟易している」と述べている。
襲撃模様がライブ配信されたこと自体、ネット文化が現実世界に浸透していることの表れといえる。ブルッキングス研究所のバイマン氏は、警察とのやり取りなど、日常生活の出来事を定期的に配信している一般ユーザーもいると指摘する。
ユダヤ人権擁護機関サイモン・ウィーゼンタール・センターのラビ・エーブラハム・クーパー副所長によると、犯人は独自に調査をしていた。「彼はネットで、今回の行動に直接つながる情報、確証、思想、人生の目的を見つけた」とクーパー氏は話している。
ソーシャルメディアは、ますます大きな課題に直面していると同氏は言う。ユーザーが自作コンテンツをアップロードできるフェイスブック、ユーチューブ、ツイッターなどのサイトは、暴力的で憎悪に満ちた投稿や動画を拡散させたとして猛烈な反感を買っている。
結局、各社は15日に襲撃模様のライブ配信を拡散させない措置を取った。だがその対応は遅すぎたという意見も多く、そもそもこの動画の投稿を阻止すべきだったと言う人もいる。
BY RACHEL LERMAN AP Technology Writer
Translated by Conyac