「遺体の写真載せるな」欧米のナイロビテロ報道に、現地が強く反発した理由

Khalil Senosi / AP Photo

◆テロ報道に見る「アフリカ」の脆弱さ
 ナイロビは2013年のウェストゲートモール襲撃事件でも、アル・シャバブのテロ攻撃のターゲットとなり、67名が命を落とした。また2013年には、ケニアの北東部にあるガリッサ大学での襲撃事件があり、152名が犠牲となった。

 テロは実際の被害や犠牲者を出すということだけでなく、まさに文字通りTerror(恐怖)を作り出すことで、人々に大きな影響力を及ぼす。ケニアを始めとするアフリカ各国は、ネガティブな報道に対して、とくに脆弱だ。ウェストゲートモール襲撃事件以後の2014年、観光産業は7.4%減少した。

 今回のテロ事件は、2013年に比べて警察や特殊部隊の対応が迅速に行われたことが評価されている。しかし、テロ事件が起きたことは、ナイロビ、ケニア、さらにはアフリカの「ソフトパワー」にとっての打撃は少なくないだろう。ナイロビ在住のケニア人は、テロ発生直後から観光産業への影響を懸念していた。

「ひとつの物語はステレオタイプをつくります。ステレオタイプの問題は、それが必ずしも事実と異なるということではありません。それが不完全な情報であり、ひとつの物語が唯一の物語として語られることが問題なのです」

 ナイジェリア人作家のチママンダ・ンゴジ・アディチェが、2009年7月に開催された「TEDGlobal 2009」で語った言葉だ。「シングルストーリーの危険性」と題されたそのトークは、これまでに1,700万回以上も再生されている。米国のように文化の影響力(ソフトパワー)や経済力が強い国の場合は「ひとつの物語」への偏りが起こりにくく、反対に国力が弱い国の場合には「ひとつの物語の危険性」が高まるという事例も挙げている。

 パリでテロ事件が起こっても、多くの人々がパリに対して憧れを抱きつづけるだろう。それは、フランスやパリに関する、多様な情報が十分に流通しているからだ。インターネットやSNSによって、アフリカ発のストーリーが多様化しているとはいえ、まだまだ世界には「アフリカ」が足りていない。起こってしまったテロ事件は非常に残念なことだが、ジャーナリズムができることはセンセーショナルな報道だけではないはずだ。

Text by MAKI NAKATA