森林火災対策ができない……政府機関閉鎖で シーズン前に広がる懸念 米国
カリフォルニア州パラダイスを焼き尽した森林火災が終息してから、わずか2ヶ月。今年、また新たな森林火災シーズンに向けて当局者たちは準備を進めているが、政府機関の閉鎖によって、歴史的災害となった前回の火災よりさらに悪い事態がもたらされることが危惧されている。
冬の数ヶ月は、森林の防火管理者にとって極めて重要な時期だ。火災の起こらないこの時期、彼らは通常ならば次なる火災への備えに費やすところだが、今年に関しては、その業務はアメリカ各地で中断を余儀なくされている。現場の連邦職員が休職中のためだ。テネシー州からオレゴン州にかけて、消防訓練講座は中止となっており、国有林内の枯れ木の山は手つかずのまま放置され、乾燥した植生を除去する野焼きも行われていない。
連邦機関閉鎖の直接的影響を受けるのはあくまで連邦職員のみだ。しかし、組織間の連携を要する林野での消防業務の性質上、4週間にわたる機関閉鎖の悪影響は確実に出始めている。その影響は現場の消防士、連邦機関の請負業者から、消防戦略を指揮するトップのマネージャーにまで及んでいる。
たとえば、消防訓練講習を必要とする州や地元の消防隊員が、講師の連邦職員が来ないために大きく混乱している。また、アメリカ森林局と協力して国有地の森林火災防止プロジェクトを策定する森林保護団体も、活動ができずにいる。自治体、州、連邦の消防機関が共同で戦略を練る毎年恒例のセミナーも中止に追い込まれた。
アメリカ南東部では、森林火災のシーズンが3月にも始まり、南西部でも、4月までには火災が発生しはじめる。昨年、カリフォルニア州北部の町パラダイスを焼野原にした最も破滅的な火災が吹き荒れたのは11月の感謝祭の前だった。そのため今回は、次の森林火災シーズンまでの準備期間が2-3ヶ月しかないという事態となっている。
「森林火災が発生していないこの時期にこそ、火災シーズンへの備えとして欠かせない仕事が沢山あることを、多くの人は理解していません。それは未だに行われていないのです」と語るのは、モンタナ州天然資源・保護部消防局の主任、マイケル・デグロスキー氏だ。
気候変動の影響で、森林火災のシーズンは過去より長くなり、火災自体も前にも増して危険で破壊的なものとなっており、それらの防火対策は極めて重要だ。
もともとデグロスキー氏は、先週、防火管理チームの指導者資格取得を希望する消防隊員らを対象に講習指導を行なう予定だった。ところが、本来なら連邦機関から来るはずの指導員が不在のため、講習そのものがキャンセルとなってしまった。
これまでオレゴン州とテネシー州でも、同様の講習が中止に追い込まれた。政府機関の閉鎖が長引けば、他州のほかのレクチャーも同じく中止を余儀なくされる。ドナルド・トランプ大統領と議会民主党は、国境の壁の建設予算をめぐって現在も争っている。
カリフォルニア、オレゴン、ニューメキシコ、ワシントン、コロラド、ネバダ、ウェストバージニア、ミシガンの各州選出の12名の上院議員が今週、「政府機関の閉鎖によって、間もなく訪れる次の森林火災シーズンに、多くの人命が脅かされかねない」と警告する書簡をトランプ大統領に送った。上院議員らはさらに、このままでは防火マネジメントの責任者育成に必要な講習や、「スモークジャンパー」や「ホットショットクルー」と呼ばれる熟練隊員までもが、近い将来危機にさらされると言及している。
スモークジャンパーは、地上からでは消防士らがアプローチできない炎に対処するため、遠く離れた森の中にパラシュート降下する。またホットショットクルーとは、最も苛烈な炎に対処できるよう訓練されたエリート消防士で構成する小隊である。
またこの冬の時期は、季節雇用の消防士の募集が行われる時期でもあり、採用者は必要な薬物検査を受けた上で、実際に勤務に就くエリアへ移動してそこで訓練を積む。ところが現在、応募の電話に対応するスタッフや募集手続きを進めるスタッフの多くが休職中であり、本来ならば消防業務に就いてくれるはずの人材が、現場の混乱を避けて別の仕事に流れてしまうことが危惧されている。
「もし仮に機関閉鎖が解消されて採用を開始したとしても、その時にはすでに、最も優秀な人材を取りこぼしてしまっているでしょう」とデグロスキー氏は述べている。
アメリカ森林局は、同局は非常勤および常勤の消防士の採用を行っており、「可能な範囲で」必須となる訓練を継続実施すると電子メール上でコメントしている。
森林局のスポークスマンのケイティー・オコナー氏によると、林野消防士のための研修プログラムの最初のセッションが先週実施されたという。
「森林局は現在、連邦機関の閉鎖中も継続できる活動項目を精査し、優先順位付けを行っています。政府機関の閉鎖は現在も続いており、終息の目途はたっていませんが、私たちとしては、それがもたらす特定の影響についてはわかりかねます」とオコナー氏は述べている。
森林保護の活動家や防火対策の専門家によれば、目下の懸念はそれだけではない。
国有地内の伐採・間伐事業や野焼きによって林野の可燃物を除去して火災のリスクを減らす対策が、カリフォルニア、オレゴン、その他の地域において、ほぼ中断している。民間請負業者によると、業務の中断を指示する書面が送られてきたのだという。
オレゴン州グランツパスの民間請負業者、グレイバック社の社長、マイケル・ホイーロック氏によると、オレゴン州とカリフォルニア州北部の国有林において、それらの事業がすでに滞っているという。
野焼きが実施できるのは、温度と湿度が下がりきる前の、冬のわずかな一時期に限られている。そしてその時期はもう間もなく終わろうとしている、そのようにホイーロック氏は言う。
「1週間遅れるごとに、その悪影響はますます大きくなっていきます」
昨年11月のカリフォルニア州パラダイスの森林火災で夫と暮らす自宅を失ったジョイス・マクリーン氏は、「国境の壁」政策についてはトランプ大統領を支持するものの、次の森林火災シーズンまでに消防士たちの準備が整わないことに不安を感じている。
「これ以上、森林火災が起らないことを願っています。もう誰にも、私のような経験をして欲しくありません」と74歳のマクリーン氏は言う。
By GILLIAN FLACCUS, Associated Press
Translated by Conyac