失われていく香港の自由 象徴する最近の3つの事件
文芸イベントと芸術イベントの中止。フィナンシャル・タイムズ紙編集者の入境拒否。中国から一定の自治権を認められてきた香港において、表現の自由が失われる懸念が再び高まっている。
11月9日、一旦中止とされた文学イベントが土壇場になって開催されることに決まった。イベント開催をめぐるこの混乱は、香港の自由をめぐる激しいせめぎ合いを象徴する出来事だ。
1997年にイギリスから返還される際の合意の1つとして、香港は以後50年にわたって半自治権を約束され、中国本土では認められていない集会の権利や言論の自由も引き続き保障されることとなった。
しかし、2015年には、中国指導部の女性スキャンダルなどを扱った書籍の出版関係者らが中国治安機関に拉致されたとみられる事件や、中国政府に対する抗議行動の主催者らが起訴される事件が相次ぎ、自由が脅かされているとの懸念が一気に高まった。
ここでは最近起きた3つの事件を取り上げ、それらが言論の自由と市民の権利に及ぼす影響についてみていく。
◆反体制作家のイベントが一時中止に
香港にある芸術関連施設が、そこを会場として開催される文学フェスティバルの中で亡命作家の馬建(マ・ジャン)氏のスピーチを許可する決定を下した。実は週の初めには、馬氏の参加は一旦中止の扱いになっていた。
9日の夕方に馬氏が香港に到着した時点では、馬氏のスピーチイベントは依然として中止の方向だった。馬氏はメディア関係者らに対し、見えざる「黒い手」が自分の参加を阻んでいるとの見方を示した。
「スピーチは必ずやります」と馬氏は発言した。「それを聞いてくれる香港人が1人でもいる限り、私に会いに来てくれる読者が1人でもいる限り、私はそこに行きます」
およそ2時間後、香港国際文学フェスティバルの主催者は、「歴史遺産芸術館『大館(タイクン)』は、最終的に馬氏の登壇を許可する決定を下した」と発表した。その決定を受けて、馬氏は翌日土曜日の夜にスピーチを行う運びとなった。
同フェスティバルのプレスリリースには、ここ数日の混乱についての謝罪と、「言論の自由と表現の自由の原則は、国際文学フェスティバルを主催する者として第一に考えるべきものです」とのコメントが掲載された。
同プレスリリースは、「一連のイベントの中止も視野に入れた今回の議論は、自分たちの立ち位置を改めて考える機会となりました」という「大館」の広報担当者のコメントも無記名で掲載した。
馬建氏(65)は、中国共産党の独裁を批判した小説で知られている。 彼の小説6作品は中国本土で発禁となっており、馬氏によれば、最新作「チャイナドリーム」の中国語での出版を受けてくれる出版社を香港では1つも見つけられなかったという。
馬氏の最新作は、全体主義体制を痛烈に批判したジョージ・オーウェルの作品にも通じる内容とされ、これまでに出版された英語版では、中国国外在住の反体制派中国人アーティスト、アイ・ウェイウェイ(艾未未)氏がカバーデザインを担当した。
今回の開催決定のニュース以前にフィナンシャル・タイムズ紙は、「大館」のディレクター、ティモシー・カルニン氏が語った「当館は、個人が政治的アピールを行うために利用する場所となることを望まない」というコメントを紹介していた。
◆フィナンシャル・タイムズ紙編集者、香港入りを拒否される
フィナンシャル・タイムズ紙は、アジアニュース編集者のビクター・マレット氏が、11月8日に一般旅客の身分で再び香港に入ろうとした際、入境を拒否されたと伝えた。
これ以前にマレット氏は、香港当局から就労ビザの更新を拒否され、香港からの退去を余儀なくされていた。ビザ更新が認められなかったのは、中国からの香港独立を主張する非合法政治グループのリーダーを同氏が外相記者クラブの講演者として招いたことに対する露骨な報復と見られている。
香港の移民当局は、マレット氏の入境拒否の理由ついては特にコメントしていないが、当局の見解として9日に「移民当局は法律と政策に従って行動しており、入境の可否については、個々の事情を慎重に考慮した上で決定しています」という声明を発表した。
今回の入境拒否措置に関して、香港のジャーナリスト団体が香港当局に抗議の書簡を送った。その中では、「言論の自由が法によって保障されていることは香港の誇りであり、今回の措置は香港の評判を損ねる悪しき先例となる」と批判している。
人権団体は、今回の入境拒否は香港に対する中国政府の締め付け強化の明らかな兆候だと指摘し、このほかにも、2014年の大規模反政府抗議行動の主催者や民権派の議員らが起訴される動きがあったと訴えた。
◆脅迫を受け、アート展示会が中止に
オーストラリアの中国系アーティスト「バディウカオ(Badiucao:巴丟草)」氏の個展が中止となった。主催者によると、中止の理由は「中国当局からアーティストに対する脅迫があった」からだという。
「ゴングル(Gongle)」と題されたこの個展の共同主催者には、香港フリープレス、アムネスティ・インターナショナル、国境なき記者団の3団体が名を連ねていた。これら団体は、 中国共産党の独裁に対する批判的な姿勢で知られている。
3団体は共同声明の中で、今回の個展は「安全上の懸念」から中止となったとコメントした。
この個展には、ロシアの反体制バンド「プッシー・ライオット」の2人のメンバーのほか、香港の野党「香港衆志(Demosisto)」の事務局長ジョシュア・ウォン(黄之鋒)氏、地元香港の政治アーティスト、サンプソン・ウォン氏らも来場する予定だった。
バディウカオ氏の風刺漫画では、中国指導部と、彼らが目指す監視社会を風刺している。また同氏はウェブサイト上で、 「アートを使って中国の検閲と独裁に立ち向かう」と述べている。
また彼のサイトには、「アートとインターネットには、個人の覚醒を促し、独立の精神を結集して独裁政権の支配と権威を打ち壊す力があると自分は信じています」とも書かれている。
バディウカオ氏自身は、すでに早い段階から、当局による拘束や本人の素性が明らかになるリスクがあることから、自分は個展会場には行かないと香港フリープレスに語っていた。
「勇気をもってすべてをオープンにして活動しているアーティストや活動家の人たちを尊敬します。それに比べると、自分は臆病者です」と、バディウカオ氏は自らのウェブサイトに綴った。
「自分はごくごく平凡な男で、英雄になるための勇気も足りません。でも、こういう平凡な男でも声を上げることはできるのです」
Translated by Conyac