ロシアW杯を陰で支える「問題解決屋」 フーリガンから問い合わせも

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 オレグ・セミョノフ氏は、ロシア・ワールドカップで発生する問題を解決している。彼が運営するファンのためのコールセンターでは複数の言語が飛び交い、タクシーの不正請求、チケット詐欺、さらには緊急医療の対応を行っている。

「チュニジア、モロッコ、アジアの国々からやって来たファンの人たちはマネージ広場やニコルスカヤで大はしゃぎしています」と、モスクワ中心部のファンが集う場所を挙げつつ彼は話をした。「半月板の損傷といった、けがをする者もいます。私たちは救急車を呼び、病院で治療を受ける手助けをします」

「診察代無料で具合を診てもらうのですが、この類の人たちは狡いことを言います。『ただで治療しれくれ』と頼み込むのです。健康保険を持っていない人がたくさんいます」

 ロシアは外国人のファンを歓迎し、彼らが街中に集まって騒ぐのを認めている。通常は、無許可での抗議活動や集会を取り締まる厳格な法令があるにもかかわらずだ。とはいえ、国の健康保険制度は、無料で受けられる手術治療に一線を引いているとセミョノフ氏は言う。

 かつてはクラブチーム「FCスパルタク・モスクワ」の熱烈なファンだった彼によると、コールセンターには数分おきに電話が鳴り、今では英語、スペイン語、アラビア語などを話せるスタッフが96人まで増えたという。

 ワールドカップ観戦を禁じられたロシア人のフーリガンが他人のIDで立ち入りできるかと問い合わせをしてきた。セキュリティが厳しいため、止めた方がよいとのことだ。他方、エカテリンブルクに住むある男性のように、ファンに宿泊してもらえるよう自宅を無料解放したいという慈善的な申し出を受けることもある。

 セミョノフ氏が言うには、外国人が襲われたという連絡はセンターに入っていないという。「ありがたいことだ」(同氏)。かばんの盗難、チケット紛失、様々な手口で行われる詐欺行為の連絡は時々ある。

「ロシア人のファンに対し、ある種の(偽)電子チケットが送られる事件がありました。日本の近くにあるサハリン島に住んでいる1人のサッカーファンがとあるチケットサイトに送金して写真を何枚か受け取った後、6時間飛行機に乗ってモスクワやサンクトペテルブルクに着いたら、詐欺に遭ったことに気づいたというものです」

 被害に遭ったファンは予約していたホテルに着くともう帰るしかない。さらに、3~4倍のタクシー料金を請求するドライバーもいるという。ソーシャルメディアのおかげで、詐欺行為はすぐに晒される。

「詐欺に遭った他人の経験から学べるので、被害件数は少なくなっています。10年前には、なかったことでしょう」

 モスクワのルジニキ・スタジアム近くにあるレストランではロシア語と英語メニューを用意していたが、英語メニューの値段が2倍になっていたというクレームを受け、捜査が入った。そのレストランはAP通信社に対し、英語メニューは従業員の「訓練用」に作ったもので、間違って顧客に出されたと弁明した。

 コールセンターの運営資金の詳細について、セミョノフ氏は多くを語ろうとしない。モスクワにある法律事務所のオフィスにより運営されてはいる。通話は無料、問い合わせのほとんどは、対価が必要になる正式な法律案件ではないそうだ。

 彼によると、このセンターはロシアスポーツ省から「補助金」を支給されており、受電件数と解決した問題の数を毎週詳しく政府に報告しなくてはいけないという。

 ワールドカップのチケットは政府が発行する「ファンID」がないと無価値で、いつでもキャンセルされてしまう。アクセスを禁止すべきファンを見つけるのに、ロシアのセキュリティサービスがソーシャルメディアをモニタリングしているとセミョノフ氏はみている。

「1人のファンが画像を付けて『なんてことだ、ここからフィールドに乗り込むのは難しい』とコメントを投稿しました。セキュリティサービスが一連の投稿をモニターしているのか、彼は『あなたのファンIDは無効になりました』というメッセージを受け取ったそうです。私たちは、ビッグブラザーが監視をしているかもしれない世界に生きています。ビッグブラザー、そうビッグデータです」

By JAMES ELLINGWORTH, AP Sports Writer
Translated by Conyac

Text by AP