過熱する中国の受験戦争 塾市場は13兆円に 「創造性潰れる」と政府は憂慮

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 中国で、全国統一大学入試である「高考(ガオカオ)」が6月7日と8日に行われた。進学先はこのテストの結果に左右され、人生を決める最も大切なイベントの一つだ。親たちは成功の鍵は早めの準備だと信じ、高額の費用を払って子供たちを塾に通わせている。巨大市場となった受験産業の行き過ぎを正そうと政府は規制を始めたが、我が子の成功を祈る親たちの教育熱は増々高まるばかりだ。

◆子供の将来を決める試験 勝利の鍵は早期教育
 今年は1000万人程度の学生が高考を受験した。この試験の結果で大学進学の可否や志望校の合否が決まる。結果として将来に大きく影響するため、親も子供も大変なプレッシャーを感じるという。

 高考で成功するためには、塾などの学校外での教育が鍵だとされている。ある母親は、「人生をマラソンに例えるなら、中国ではいつも勝者はスタートラインで決まっている」とし、早期の英才教育の重要性をCNBCに説いている。彼女の息子は小学1年生から塾通いをし、ピアノ、スポーツ、英語、数学などを学んでいるという。クラスメイトの半分は同様のプログラムに参加しており、多くが小学校入学前から始めているという。

◆最高の教師にお金は惜しまず 急成長する受験産業
 塾の需要が高まるにつれ、親はより良い教師を求め、子供に最高の授業を受けさせるために尽力する。ある母親はまるで不動産と一緒だと語る。塾の費用が安いと親は指導の質に問題があるのではないかと疑うため、授業料の高騰を招いているとCNBCに話している。

 高い費用にもめげない親の情熱の結果として、中国ではいまや学習塾は1200億ドル(約13.2兆円)以上の巨大市場となり、塾ビジネスで急成長する企業を生み出している。中でも北京に本社を置くTALエデュケーションは、教室での直接指導とオンラインの授業を組み合わせた教育で高い支持を得ている。創業者のチャン・バンシン氏は北京大学で生命科学の博士号を取得した秀才だ。田舎で飲食店を営む親の経済的負担を軽減するため家庭教師を始めたことが、このビジネスを起こすきっかけとなった(ブルームバーグ)。

 CNBCによれば、TALは中国国内36都市に展開し、約400万人のオフライン受講と3500万人以上のオンライン受講登録を持つという。時価総額は約220億ドル(約2.4兆円)とされており、チャン氏は現在37歳の若さで富豪の1人となっている。

◆塾ブームは行き過ぎ 政府が対策に乗り出す
 中国政府は過熱する塾ブームを快く思っていない。習近平主席は、テストにとらわれ過ぎることで、中国版スティーブ・ジョブスを生み出せるような創造性が破壊されることを憂慮しているという。また、良い塾に行ける子供とそうでない子供の格差が広がることも問題視しており、2月には民間が運営するランク付けテストや競争を廃止し、低学年の子供たちに進み過ぎた内容を教えるコースも禁止した(ブルームバーグ)。李克強首相は、教育セクターの監督を強化し、親と子どもへの経済的、学問的負担を軽減すると約束している(CNBC)。

 しかし、UBS証券のエグゼクティブ・ディレクターのエドウィン・チェン氏は、市場の90%は個人経営の塾が占めており、新規制で参入障壁が高くなれば、TALのような大企業が有利になると述べる。大手はテクノロジーへ投資する力もあり、今後も増々事業は拡大すると見ている(CNBC)。

◆厳しい競争に勝ち抜いてこそ本物 「高考」は続く
 規制に乗り出した政府だが、実は競争を助長する「高考」自体は肯定している。政府系英字紙グローバル・タイムズは、いまや中国はアメリカからライバル視されるほどの高い教育レベルを持っていると誇り、学生が試験制度において根気強く学習し、優れた結果を出すことで、中国の競争力は輝き続けるとしている。いろいろ物議を醸しているものの、今の試験制度こそが中国のアドバンテージだと言い切る。

 TALのチャン氏によれば、政府の方針にかかわらず、中国の親は1300年続いた官吏採用試験制度「科挙」にさかのぼる猛烈な学問文化を捨てることはないと、中国の教育界でも言われているらしい。北京の塾、Gaosiエデュケーションのディレクター、オーティス・シー氏は、「高考」が続く限り、試験の得点が全ての基準というのが現実だと述べている(ブルームバーグ)。

Text by 山川 真智子