もう使われないラテン語、なぜヨーロッパの小中高生は学ぶのか
ラテン語は、現代社会ではもう使われなくなった非実用的な言語だ。でもヨーロッパの中学校や高校では、いまもラテン語が必修科目だったり、選択科目になっている国がある。もちろんラテン語の教材はあるし、ハリーポッターのラテン語版もあったりするが、かなりの暗記力を必要とするので、決して学びやすい言語ではない。では、なぜこの古典言語を子どもたちに学ばせるのだろうか。
◆ブランド名「ニベア」「アウディ」「ボルボ」はラテン語
古典言語とはいえ、ヨーロッパではラテン語の単語を多少日常的に使っている。英単語になっていて日本人も普通に使っているのは、たとえば、アリバイ(犯罪などの容疑者や被疑者が、事件現場にいなかった証明)、エトセトラ(~など)、マルチ(たくさんの)、p.s.(手紙やメールで使う「追伸」)、ボーナス(賞与)、バーサス(スポーツの試合などで使う●対▲の「対」)など。
企業がブランド名として使うこともある。有名な化粧品ブランドの「ニベア」は「真っ白い」という意味。車の「アウディ」は「聞く」という意味で、創業者の名字ホルヒとドイツ語のホルヒェン(注意して聞く)の響きが似ていることから、「聞く」というラテン語を使うことになった。同じく車の「ボルボ」は「転がる、転がす」という意味。こんなことに気づくと、ラテン語が少し身近な存在に思えるかもしれない。
◆イギリスでは、ラテン語を学ぶ小学生も
ラテン語は、多くの子どもたちが学んでいる。ドイツでは、大学進学を目指す子どもたちが通う中高一貫校(ギムナジウム)でラテン語を学ぶ生徒が多く、最近の連邦統計局の統計では65万人以上がラテン語を学んでいる。フランスでは、中学校(コレ-ジュ)で選択科目としてラテン語が学べる。全国の中学生332万5400人(2016年)の約20%がラテン語を学んでいるというから、ドイツと同様に66万人以上にもなる。イタリア、スペイン、スイスでは、中学校や高校の一部でラテン語が必修科目となっている。
イギリスの状況は、少し違う。数年前の教育課程改正により、小学校の後半段階(キーステージ2と呼ばれる。7~11歳)で外国語学習の選択科目としてラテン語も選べるようになった。10年以上前から、ロンドンやオックスフォードのいろいろな小学校でラテン語を教えるプロジェクトを進めてきたアイリスプロジェクトという組織もある。とはいえ、国内の小・中学校の言語教育についての調査『Language Trends 2015/16』によれば、調査対象の小学校のうちラテン語を教えているのは4%にも満たず、ラテン語を学ぶ小学生は全体的には少数派だろう。
◆ラテン語を学ぶと特典がいっぱい
小・中・高校でのラテン語教育を推進する人たちは、子どもたちがラテン語を学ぶとよい影響が見られると指摘する。イギリスの教育チャリティー団体クラシックス・フォー・オール(ラテン語や古典ギリシャ語などの古典教科を教えるため、小・中学校に資金援助する)が挙げる理由は以下だ。
英語の力がアップする:ラテン語は最初から文法をしっかり学ばないといけないため、英語の文法理解にもつながる。
文化をよりよく理解できる:神話は、現代アートや現代文学の基礎になっている。
ヨーロッパの哲学や歴史の土台を知る:ラテン語はヨーロッパの社会や考え方に影響を与えた。
多様な文化背景の人を理解できる:ラテン語話者たちには現代人とはまったく異なる面もあったので、ラテン語を学ぶと他者理解に役立つ。
広い視野を持てる:ラテン語を学ぶということは、文学、歴史、哲学、アートを学ぶことでもある。
ビジネスシーンで役立つ:学校や大学でラテン語を勉強した人は尊敬のまなざしを受ける。古典教科を学ぶと、明確な考え方ができ、細部に目が行き、討論がしっかりとできる力が育つ。
実用的ではないからとか、子どもの負担が大きいから学習不要という意見もあるが、今後も、ヨーロッパでは、子どもたちがラテン語を学ぶ枠がなくなることはないだろう。