海外で広く報じられた荒木経惟氏への告発 「本格化した」日本のMeToo運動
福田淳一前財務事務次官のセクハラ問題が内外で伝えられ、ついに日本にもMeTooの波が到達したようだ。そんななか、写真家・荒木経惟氏からの被害を、彼の「ミューズ」とされてきたKaoRi氏が自身のブログで訴えた。その根底に人権・契約問題があることから、日本とは対照的に海外で広く報じられている。
◆大規模個展が開催中のNY市で大きく報道
KaoRi氏はブログで、荒木氏のモデルを務めた16年間に受けた数々の経済的・精神的搾取を綴った。そのなかで多くの読者にとって最も衝撃的だったのは、正式な契約を交わしていなかったということだろう。ヌードや緊縛を含むハードな撮影でも報酬がないことがままあり、無断で写真を商品化され続けるなど、驚くべき内容が明かされている。
KaoRi氏に取材し、一般紙として初めて詳報したのがニューヨーク・タイムズ紙だ。というのも、同紙はNT市の「セックス博物館」で開催中の荒木氏の個展の長文記事を2月に掲載しており、すでに「写真家とモデル」というテーマに注目していたからだ。個展は、昨年からのMeToo運動もあってよくも悪くも注目を集めており、館内2階で展開する「論争」コーナーでは、KaoRi氏のコメントも掲示されるという(8月31日まで開催)。
記事では、著名な男性芸術家と女性モデルとの関係を、その権力差により生じる不均衡にフォーカスして詳しく述べている。荒木氏の作風――とりわけ、無表情なモデルの緊縛・ヌード写真などは、「受容」「意味」という視点で論争になってきた。そこへ新たな問題提起を加えたのが、KaoRi氏ら複数のモデルから突きつけられたMeToo案件であり、権利・契約に関する新たな一石を投じたと見ている。
同紙はまた、このように女性が従順になる背景に根強い男尊女卑があるとしている。昨年、レイプ被害を訴えた伊藤詩織氏の件を多くのメディアが取り上げなかったことや、福田前次官の問題を例に挙げ、女性の社会的地位が先進国中でも低い水準にあると指摘した。
◆日本のMeToo発生の経緯に注目するメディア
KoaRi氏の告白に続き、女性問題で辞任した米山隆一前新潟県知事、福田前次官の件が報じられるまでの流れをもって、日本でMeTooが本格化したと見ているのがBBCだ。福田氏の件では、麻生太郎財務相、下村博文元文科相、お笑い芸人の松本人志ら社会的地位の高い男性による被害者バッシングも詳しく伝えており、問題の本質として見ているようだ。性被害者に対する蔑視や抑圧が強い風土は、海外メディアが特筆すべき部分なのだろう。
また、「(福田氏から被害を受けた女性)記者の主張は、KaoRiが日本写真界に爆弾を投下した直後になされている」(BBC)と、順番にも着目している。これは、記者もKaoRi氏も、MeToo運動に背中を押されて告白に至ったと明かしているからだろう。記事は、KaoRi氏に刺激された水原希子(女優・モデル)が寄せた連帯の言葉で締めくくられている。
◆日韓トップのスタンスを分析する向きも
ビジネスメディア『クオーツ』では、荒木氏の件を文化人初のMeTooと伝えた。MeTooが本格化したのは、日本のメディアが福田前次官の件を大きく報じたのが契機だとし、それまで足踏みが続いた理由を、韓国の活発なMeTooと比べて考察している。その分析によると、同じく女性差別が根強い韓国では文在寅大統領がMeTooの支援を約束した一方、安倍首相が女性の活躍を公言しながらMeTooには公的なコメントがないためだという。また、安倍政権は支持率アップのためにこの方面の政策見直しを図るのでは、とも見ている。
荒木氏の件が海外で広く報じられた理由は、彼の世界的な知名度だけではないだろう。「ミューズ」とはモデルを神聖化することで人格・権利を軽視することだ。今回はそれが契約(権利)という形で表面化したため、そうした問題に敏感な欧米メディアを中心に大きく取り上げられたのではないだろうか。