欧米で広がる「マンスプレイニング」への問題意識 英首相も野党党首にピシャリ

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 男性が女性に対して一方的に解説をすることを指す「マンスプレイニング」は、アメリカ人作家レベッカ・ソルニットによる造語とされる。日本ではここ数年、インターネット上で急速に広まりつつある言葉だが、欧米ではハラスメントの一種として社会に知れ渡っており、昨年から続く#MeTooムーブメントにも乗って再び注目の言葉に躍り出た。

◆“氷の女王”メイ首相が議会でピシャリ 
 レベッカ・ソルニットが「man(男)」と「explain(説明する)」を組み合わせた「マンスプレイニング」という概念を、自身の体験をもとにしたコラムで発表したのは2008年のことだ。パーティで出会った男性が、レベッカの著作について、目の前にいるのが著者本人とは考えず得意げに解説してきたのだという。レベッカは、男性のこうした言動の背景には「女性は男性よりものを知らないはず」という性差別にもとづく思い込みがあるのだと考察した。

                                                                                                                 

 レベッカの記事はまたたくまに女性の共感を呼び、「あるあるネタ」としてSNSなどで拡散され、ネットを飛び出して現実社会でも使われるようになる。2010年にはニューヨーク・タイムズが選出する流行語のひとつに選ばれ、2014年にはオックスフォード英語辞典(オンライン版)に掲載された。この現象はヨーロッパにも飛び火し、アメリカ同様、政治・人種差別問題の話題でも「マンスプレイニング」という言葉が使われるようになった。去る3月7日のイギリス議会でもこの言葉が聞かれ、欧米での浸透ぶりを改めて示した。

 それは、テレーザ・メイ首相が労働党党首ジェレミー・コービンとの質疑応答の冒頭でのことだった。コービン氏は、メイ氏への質問の冒頭で翌日が国際女性デーであることに触れ、男女平等社会の進歩と課題を指摘した。するとメイ氏は皮肉たっぷりに礼を述べながら「これこそマンスプレイニングですね」と短く返し、議会は笑い声に揺れた。

 マーガレット・サッチャーに次ぐ2人目の女性の首相であり、冷徹な仕事ぶりとフェミニストを自称することで知られるメイ氏の発言だけに、野党リーダーがやり込められる格好となったこのやりとりは、英米を中心に大きく報じられている。

◆#Me Too、「マンスプレイニング」の発信地アメリカで大きく報道
 そもそもコービン氏の発言の根底には、メイ氏とサウジアラビアのモハメド・ビン・サルマン皇太子との会談を追及する目的があった。会談では武器売買などで貿易・投資を拡大する方針が決まったが、サウジ主導の空爆被害への非難や人権侵害、とりわけ女性への人権侵害が国際的にも問題視されていたからだ。そのため、コービン氏としては、国際女性デーを控えたタイムリーな攻撃になるはずだった。実際、国際女性デーの誕生地であり、「マンスプレイニング」、#MeTooの発信地であるアメリカでは、この話題をSNSの反応を交えながら扱うメディアが目立った。

 ABCニュースは、質疑応答の冒頭にあたる「マンスプレイニング」のやりとりにフォーカスして紹介した。イギリス議会の首相質疑といえば白熱した議論で知られる。なかでも緊張感と注目度が高まる導入の様子、どっと沸き立つ議場の雰囲気を動画つきで報じている。自らが女性の首相であることを強調しつつ、会談に対する非難をものともしていないメイ氏のコメントも付け加え、彼女の斬り返しを痛快なものとして伝えた。

 NBCニュースは、サウジの女性の人権侵害に関する過去の詳報へリンクを張り、コービン氏側の意図にも目を配った。同時に、メイ氏が議会後に更新したツイートも紹介。ツイートはコービン氏に宛てたもので、オックスフォード辞書の「マンスプレイニング」の語義だけを書きこんだ内容だった。同局は、昨年から続く#Me Tooムーブメントの結果、「マンスプレイニング」という語がさらに市民権を得たと見ており、SNSと連動してこの言葉の影響力が増したのだと指摘している。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、ツイッターからイギリス市民のさまざまな反応も拾っている。例えば、コービン氏の発言がマンスプレイニングなのか疑問だという声や、メイ氏の発言はサウジ問題の批判を封じるための自己弁護ではないかとの意見、そうした非難や右翼的な政策も含めて彼女の指導力を支持する移民の見解などである。これらを紹介したうえで同紙は、「いずれにせよ、マンスプレイニングという語が議会で、首相によって発せられたことは歴史の一歩だ」とまとめた。

◆言葉の誕生から10年。ビジネスシーンにおける対処法など新視点も
 本国イギリスではBBCが、両氏のやりとりを議会の異例のスタート場面として簡潔に触れ、議論の内容を中心に報じた。まず、サウジの人権侵害を長く懸念してきたコービン氏にとって、政府を鋭く突くよい機会のはずだったと背景を紹介し、コービン氏が戦争犯罪への加担だとして政府を糾弾したことも伝えた。同局の見方は、サウジ問題を国際女性デーに関連づけるというコービン氏の意図が見え透いていたために、メイ氏による「マンスプレイニング」の切札がはるかに効果的だった、というものだ。コービン氏が恥をかいたことも述べており、社会的地位の高い男性が、ハラスメントを公の場で指摘されることがいかに恥辱であるかを示す報道にも読める。

「マンスプレイニング」の誕生から10年がたち、欧米メディアでは単に事例をセンセーショナルに報じるだけではなく、新たな視点が提示されるようになってきている。女性リーダー育成にも携わるコラムニストによるフォーブス誌の記事(Kristi Hedges、2月26日)は、女性同士で目を配りながら手助けをすること、ユーモアで切り返す術など、5つのマンスプレイニング対処法を提案している。また、関連する調査結果もあげつつ、男性の75%に対し女性は25%しか発言できていないなど、会議での問題点もあげた。

 日本では主要メディアが報じていないマンスプレイニングだが、ジェンダー問題の議論がさかんな欧米では、扱われ方が展開し、次の段階に入った感がある。フォーブス誌にあるようにマンスプレイニングは誰にでも起こり得るし、ハラスメントが権力差を背景にしている以上、性別を問わず降りかかるといえる。ビジネスでのコミュニケーションを円滑にするためにも、心にとめておきたい言葉である。

Text by 伊藤春奈

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