韓国、繰り返される財閥トップの不祥事 有罪判決でも特赦 市民から批判も

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 財閥企業トップの実刑判決に韓国国内で激震が走った。贈収賄の罪で起訴されていた韓国ロッテグループ会長・辛東彬氏(日本名:重光昭夫)に、2月、懲役2年6ヶ月の実刑が下されたのだ。財閥企業の経営者による汚職事件では、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長に執行猶予付きの懲役刑が言い渡されたばかり。どちらも朴槿恵前大統領に対するワイロを贈った罪で裁かれたもので、韓国を揺るがした大スキャンダルに一定の終止符が打たれた。

◆毎年のように逮捕・起訴される財閥出身の経営者
 韓国の財閥幹部らによる汚職事件はこれだけではない。

 2003年には石油・エネルギー分野を代表するSKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長に粉飾決算容疑がかけられた。同氏は2013年にも背任罪で服役していたが、日本からの解放・独立を祝う光復70周年に合わせて特別恩赦となっていた。なお、この措置を決めたのは朴槿恵前大統領だ。

 2006年には現代(ヒュンダイ)自動車の鄭夢九(チョン・モング)会長が横領容疑で逮捕された。鄭氏は役員らと共謀して系列会社の資金を不正送金し同社に3000億ウォン以上の損失を与えたとされた。しかし、同氏も2008年の光復節に合わせて特赦・放免となっている。

 2007年にはハンファグループの金升淵(キム・スンヨン)会長が暴行事件で逮捕。このほか不正に資金を流用した罪で懲役4年6ヶ月の実刑判決が下された。さらに同会長の三男である金ドンソン氏が昨年11月、バーで泥酔し従業員に暴行をはたらいて逮捕された。懲役8ヶ月、執行猶予2年、社会奉仕活動80時間が言い渡された。ところが暴行事件前に居酒屋で夕食をともにしていた大手法律事務所所属の新人弁護士に暴力を振るった事実が明るみになり、再び批判の的となっていた。

 このあとも加工食品大手のCJグループ会長の脱税事件(2013年)や、汚職事件ではないものの、大韓航空の元副社長が私的理由で航空機を引き返させるという「ナッツ・リターン」騒動(2014年)も起きた。いずれも財閥出身者が起こした事件、不祥事だ。その品格を疑う行動がニュースになるたびに韓国国民からは冷ややかな視線が送られている。

◆逮捕されても財閥トップなら特赦がある?
 韓国では大統領のみに与えられた特別な権限がある。特別恩赦がそのひとつだ。日本からの独立記念日に合わせて、毎年、服役中の企業関係者や軽犯罪者の刑執行が免除・減刑されている。しかし光復節の特赦に対しては批判的な意見も多い。特に2000年代に入ってからは数万人単位で特赦が行われ、多いときで朴槿恵政権時には200万人以上に達した。市民からは「犯罪者たちを解放すれば国民の士気があがるのか?」「法治主義、自由民主主義の崩壊だ」「財閥を特赦するために200万人を特赦している」といった批判まで寄せられた。

 昨年には友人である崔順実(チェ・スンシル)の国政介入問題で、憲政史上初めて最高権力者が弾劾・罷免された。懲役30年を求刑された朴槿恵被告や事件に関わった財閥トップも、特赦により解放されてしまう可能性は否定できない。韓国国民の怒りの声は果たしていつ届くのだろうか。

Text by 古久澤直樹