大学を標的にする白人至上主義団体が急増 たいまつ掲げデモ・集会も
ドナルド・トランプ大統領の当選以来、移民などの問題をめぐる政治的緊張と人種間の対立が導火線となり、白人至上主義団体が大学構内を標的にする回数が急増していると、過激主義と偏見を監視する団体が発表した。
名誉毀損防止同盟(Anti-Defamation League: ADL)が今月1日に発表した報告書によると、2017年秋、大学構内で人種差別的なビラ、垂れ幕、ステッカーが147回発見された。これは、2016年秋に報告された41回の3倍以上の数字だ。
ニューヨークに本部を置く非営利団体であるADLの幹部は、急増の理由について、国の政治がますます分極化する中、メンバーのスカウトを目論む少数の白人至上主義者団体が大学構内で活動を強化しているためと考えている。
「昨秋、白人至上主義者たちが自分たちにどれほどの勢いを感じていたかはさておき、彼らは確実に活動を強化しています」と、ADLの過激主義センター(Center on Extremism)代表オレン・シーガル氏はインタビューで語った。
2016年11月にドナルド・トランプ大統領が当選して以来、333件の事例を追跡したADLは、シーガル氏曰く「大統領選挙戦の特徴であった不和」を喜ぶ白人至上主義者団体の活動の増加を認めている。
この1年間で、何校ものアメリカの大学に人種差別的見解を誇示する極右グループが出没している。2017年8月、たいまつを掲げた数百人の白人至上主義者がバージニア大学で集会を開いた翌日、反対派の抗議デモに自動車が突っ込み、32歳の女性が死亡した。
トランプ大統領は「双方に責任」があったと発言し、議会で民主党と共和党から批判を招いた。
集会はその後も続き、2017年11月にテキサス大学オースティン校で覆面をした白人至上主義者団体のメンバー25人が行ったデモでは、たいまつとテキサス州の旗を掲げる者もいた。
「大学構内で行われていることは時代を反映しています。遺憾で嘆かわしいことでありますが、これが2018年に私たちが置かれている現状なのです」と、約1,800校の大学長により構成される米国教育協議会(American Council on Education: ACE)の副会長テリー・ハートル氏は話す。
白人至上主義団体の集会や演説が世間の注目を集めているが、ADLが追跡した事例の大半は、大学構内でひそかにビラを配布し、見つかる前に退散するといった、目立ちにくい活動だ。
例を挙げると、2016年9月以降監視されている346件の事例の約半数は、「先祖代々の遺産を守ろう(Protect Your Heritage)」などと書かれたビラをニュージャージー州からカリフォルニア州にかけての大学で配布した白人至上主義者団体アイデンティティ・エウロパ(Identity Evropa)によるものだ。
先月だけで、サウスカロライナ大学とバーモント大学で人種差別的なビラが発見され、ネオナチ団体に関連のある反移民的なビラがワシントンDCのアメリカン大学で発見された。
最新の報告によると、2016年9月以降、テキサス州の大学がもっとも頻繁に標的にされており、61件の事例が確認されている。第二位はカリフォルニア州の43件で、ペンシルベニア州の18件、フロリダ州の17件がそれに続く。
大学側の対応はさまざまだ。構内でのヘイトスピーチを激しく非難する大学がある一方、白人至上主義者団体に注目が集まるのを避けるため無視する大学もある。大学側にとって、言論の自由と学生の安全の均衡を保つのは至難の業なのだ。
多くの大学が、白人至上主義者の演説家リチャード・スペンサー氏に構内での講演を許可するか否かという問題に直面している。ミシガン州立大学など、講演を拒否したためにスペンサー氏の支持者に言論の自由を求める訴訟を起こされた大学もある。
「大学側は、法的な要件、実際的な検討、道徳的な義務に取り組む必要があります。そして、事例に応じて異なる対応を取るのです」とハートル氏は話す。
報告によると、カリフォルニア大学サンディエゴ校で1月11日、アイデンティティ・エウロパのメンバーが民族学の講義を妨害したうえに学生に嫌がらせをした。アイデンティティ・エウロパの代表パトリック・ケイシー氏にEメールでコメントを求めているが、返信はない。
ADLのシーガル氏によると、白人至上主義団体の活動中のメンバーが根城としているテキサス州とカリフォルニア州での報告件数が多い。だからといって、この2州の大学において白人至上主義者が増えているというわけではないと同氏は話す。
報告によると、2016年秋以降、アイビーリーグの一流大学から小規模のコミュニティカレッジに至るまで、計212校が標的となっている。白人至上主義者が主に標的にするのは、強い反応を引き起こせそうな大学だとシーガル氏は話す。
「彼らはメディアの注目に依存するところが大きいのですが、一方で、不満を抱えていそうな若者や彼らの主張に惹かれる若者に接触し、仲間を増やして将来の安定を図りたいと考えているのではないでしょうか」
By COLLIN BINKLEY, AP
Translated by Naoko Nozawa