イタリアが抱えるファシズムの闇:大量殺人未遂事件で外出自粛を強いられるアフリカ系移民
著:Paolo Novak(ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院 Lecturer, Development Studies)
カフェの前、煙草店の前、駅前―場所は問題ではなかった。それが誰かも問題ではなかった。男か女か、イタリア市民か、合法的な移民なのか難民認定希望者なのかも問わなかった。とにかく黒人であること。それだけが襲撃の理由だった。
2月2日にイタリア中部のマチェラータの町で発生したアフリカ系移民に対する銃撃事件。この事件では、イタリアにおける移民問題の議論において、ファシストと人種差別主義者の影響力がどれほど強いかが浮き彫りになった。
一連の襲撃では、6人が銃撃を受けた。1人は女性、5人は男性。うち1人は胸部に傷を負って地域の病院に入院した。他の被害者は怪我の程度は軽く、容体は安定している。
イタリア国旗を体に巻きつけた姿で逮捕されたルカ・トライニ容疑者(28)。男は人種差別的な動機に基づく大量殺人を試みた罪に問われた。男のアパートからはヒトラーの「我が闘争」のほか、イタリアのファシズムに関する書籍が発見されたと伝えられた。トライニ容疑者は2017年の地方選挙で極右政党「北部同盟」の候補として立候補し、たったの1票も取れずに落選した。
今回の襲撃は、1月下旬にマチェラータ近郊の道路沿いに投棄された2つのスーツケースの中から、パメラ・マストロピエトロ氏のバラバラ死体が発見されるという凄惨な事件の発覚直後に発生した。この死体遺棄事件では、イノセント・オーセガレを名乗るイタリア在住のナイジェリア人男性(滞在許可証の期限は切れていた)が殺人容疑で逮捕された。
◆困難に満ちた人生
私自身は、襲撃事件の被害者のギディオン・アツェケ氏にもジェニファー・オティオト氏にも、それ以外の被害者の誰にも会ったことはない。そもそも被害者の名前などは、ほとんど報道すらされていないのが現状だ。しかし私は、イタリア政府の難民受け入れ制度に関する自分の研究の一環として、2017年の夏にマチェラータにおいて多くの難民認定希望者と面会した。その当時からすでに、彼らは日常的に直面する社会に根差した構造的な人種差別主義への強い懸念を抱いていた。
襲撃の数日後に電話で彼らと話をした私は、事件に対して彼らが抱く深い諦観・無力感にショックを受けた。私がそこに感じ取ったのは、移民たちの困難に満ちた人生の軌跡であり、彼らが抱くごくあたりまえの恐怖や、彼らの渇望、安全でまっとうな人生を送りたいという強い希求だった。そういった何もかもを、これまでイタリア社会は直視せず、移民問題に関する国内議論の中で、ただただ問題に蓋をすることしかしてこなかった。
私が話をしたナイジェリア人の一部は、「すべてのナイジェリア人のイメージを悪くした」としてオーセガレ容疑者を非難した。また別の人たちは、彼らが過去にリビアで直面した暴力的・人種差別的な蛮行にふれ、イタリア・リビア両国の移民への対応には明白な類似性があると指摘した。その上で、亡命申請が受理されるまでの期間、自分たちが現在滞在しているホテルや家から極力外に出ずに閉じこもっておくことが最善だと、電話で話した全員が声をそろえた。これは私にとって非常に不本意なことだった。
それは良くない、と私は強調した。それよりむしろ外に出て、現在すでに行われている、あるいは今後予定されている様々な抗議やデモに加わることを彼らに強く勧めた。
◆きわめて安易な人種差別主義
今回の大量殺人未遂事件では、3月4日の総選挙を前にして、ファシストグループとそのイデオロギーが現在イタリア国内でどれほどポピュラーで多くの人々の心を捉えているのか、はっきりと露見したように見える。
トライニ容疑者は逮捕後に複数のソーシャルメディア上で「愛国者」として祭り上げられた。極右政治家のロベルト・フィオレ氏によって設立された極右政党「新しき力」は、トレイニ容疑者を全面的にサポートするとし、必要な訴訟費用を負担すると申し出た。
そのほかの政党は、犯人の行動を直接支持せず一定の距離を置きながら、この事件の持つ本質的な政治的意味合いから意図的に国民の目を逸らす戦術をとった。
極右グループ「カーサ・パウンド」は今回の襲撃を非難し、トライニ容疑者と同党との密接なつながりについての報道を否定した。北部同盟の指導者ロベルト・サルヴェーニ氏は、トライニ容疑者が過去に自党から選挙に立候補していた事実には極力触れず、今回の犯行は「無節操な移民受け入れによって作り出された社会的対立」の結果だと主張した。
「フォルツァ・イタリア」のリーダーで元首相のシルヴィオ・ベルルスコーニ氏は、移民は「いつ弾けてもおかしくない社会の爆弾」であると決めつけ、最大60万人にのぼる移民たちをイタリアから追放すると公言した。また、「イタリアの同胞」をはじめとするその他の右派政党は、「移民たちによってイタリアは安全保障上の危機に直面しており、これに強く対応していく必要がある」という党の主張を喧伝するため、この事件を利用した。
民主党に所属する内務大臣マルコ・ミンニティ氏は国民の連帯を訴えた上で、今回の銃撃事件は組織的なものではなく、ひとりの危険人物によって実行されたものだと主張、事態の収拾を試みた。世論調査では現在イタリアで最も支持される政党であるとされる「五つ星運動」は、今回の事件に対しては各党が沈黙を守ることこそが重要だと表明した。
移民支援団体の「移民コーディネーション」は、これら各党の対応の背後には、移民をイタリア人の脅威とみなし、軍事・安全保障面からの強硬なアプローチを正当化しようとするイタリア政界に深く根差した人種差別主義が存在すると警告した。
私自身も、今回の襲撃事件はれっきとしたテロ行為であり、単なる突発的な一事件ではないと考えている。つまりこれは、移民とその支援者を威圧する意図を持って行われるファシストの過激な謀略の一端なのだ。このような動きに対しては、私たちは強く団結して対抗していかなければならない。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Conyac