あれから4年、大きく変貌するソチ ドーピング茶化すカクテルも人気に

Artur Lebedev / AP Photo

 ソチのドーピング研究所でサンプル(検体)を一杯いかが?

 2014年の冬季オリンピックを震撼させたロシアのドーピングスキャンダルの舞台となった建物は現在、その悪名をたたえるレストランとして生まれ変わり観光客の間でブームになっている。

 元所長のグリゴリー・ロドチェンコフ氏がロシアの人気選手たちのドーピングとその隠ぺいを証言してから4年が経ち、同じ場所でカクテルが提供されている。ステロイド入りではなく、アルコールだけの。

 ドーピングしたスポーツ選手の有罪を確定するために行われる二次検査から名前を取った“Bサンプル”は、テキーラとサンブーカとホットソースのパンチの効いたカクテル。人気テニスプレイヤーのマリア・シャラポワ選手が2016年に陽性となった禁止薬物“メルドニウム” は、ここではアブサンとレッドブルのカクテルの名前だ。

 パフォーマンスが向上するかって? それはないだろう。

 この一風変わったメニューは「この建物の物語を忘れないための……歴史(に関するもの)」だと、支配人のエレーナ・ディアトロワ氏はAP通信に語った。ドーピングスキャンダルは「ロシアの汚点」だと彼女は考えている。

 2014年、ロドチェンコフ氏は一味違うカクテルを調合したという。国が後押しするドーピング計画で、ベルモットやウイスキーにステロイドを混ぜてソチオリンピックの前にロシアのトップアスリートたちに提供し、安全だとされている研究所の保管庫の壁の穴を通して汚染された検体をきれいなものにすり替え、彼らの薬物使用を隠ぺいしたと同氏は証言している。

 レストランやその他の事業スペースを作るために改装された今、問題の穴の痕跡は残っていないようだ。

 ロシア政府からの抗議を退け、国際オリンピック委員会(IOC)はロドチェンコフ氏の証言を支持。43人のロシア選手がオリンピックから永久追放処分を受け、2月に韓国で開催される平昌オリンピックにロシアの選手は中立選手として参加することを余儀なくされた。

 件の研究所はさておき、ソチはオリンピックのレガシー(遺産)によって定義される都市だ。

 IOCの処分を受けた選手を含む2014年のメダリストの名前が刻まれたオリンピックパークの記念碑の前に群がって写真を撮る観光客たち。年月と風雪を経て消えかかった何人かの名前は、IOCが2014年の記録から抹消したロシアの13個のメダルを彷彿させる。

 この場所を訪れる多くの人々にとって、追放されたアスリートたちは今でもチャンピオンなのだ。

「この件にはむきになってしまいます。わが国のアスリートたちはこんな風に残されるべきではないし、中立選手として参加すべきではないと思います」と、工業都市サラトフから休暇を利用して初めてソチにスキー旅行に来た弁護士のカリーナ・トルマチョワ氏は話した。

 ロシア政府がオリンピックと関連インフラに推定510億米ドル(約5.7兆円)を投じたソチの街は、その成果を享受している。

 副市長のセルゲイ・ユルチェンコ氏によると、オリンピック以降、人口が50パーセント増の60万人となった。よりよい気候を求め南部へ移住したいと考えるロシアの人々を惹きつけたのだ。急激な人口増加により、市は学校の新設に追われている。

 冬にはスキー、夏には海水浴を楽しめるソチ。ユルチェンコ氏によると、昨年は650万人の観光客が訪れた。このうち約85パーセントがロシア人だ。

「オリンピックのおかげでソチ全体の開発が飛躍的に進みました」と同氏はAP通信に語った。「ソチは事実上生まれ変わったと私たちは考えています。あたかも一から作り直したかのように」。観光客向けのアトラクションを見る限りそれは事実だが、古い建物もまだ多く残っている。

 人気のあった観光地が政治的混乱の影響を受けたことも、間接的にソチに注目が集まる一因となった。2015年11月、ロシア軍の爆撃機がトルコ軍に撃墜された事件を受け両国政府が衝突、2016年にトルコを訪れるロシアの観光客は激減した。2015年、ロシア人観光客を乗せた旅客機がテロの疑いがある爆発により墜落した事故を受け運行を停止していたエジプトへの直行便は、いよいよ2月から再開される。

 ソチを見下ろすコーカサス山脈も、好景気に沸いている。

 オリンピック期間中、山村のローザ・クトールは多くのスノースポーツの拠点だった。しかし、いくつもの新店舗が未完成で、オリンピックが終わった今、はたしてオープンするのかと観光客をいぶかしがらせている。

 現在、ロシアの富裕層をメインターゲットにしたスキーレッスンをはじめ、ギャンブルが厳しく制限されているトルコからの観光客を狙ったカジノや、ロシアの人気ミュージシャンのライブが開催されるコンサートホールなど、幅広いビジネスが展開している。

 ソチの次なるステップは、6月と7月に開催されるサッカーのワールドカップだ。オリンピックの開会式と閉会式が行われた黒海に面したスタジアムは、クリスティアーノ・ロナウド選手を擁するポルトガルや世界王者のドイツなど各国のチームを迎えるサッカースタジアムとして再利用される。

 ワールドカップが成功して外国人観光客が増加することをソチは期待している。しかし、そのスポーツのレガシー(スポーツによる長期的でポジティブな効果)には甚だ疑問が残る。フィシュト(オリンピックスタジアムの愛称)でこれまでに行われたサッカーの試合はわずか7試合、うち4試合は昨夏のコンフェデレーションズカップで行われた。さらに、もはやソチにはプロサッカーチームが存在しない。

 FCソチは昨年、4万7千人を収容できるフィシュトに集まった6千人のファンの前で一試合を行った直後、戦略を練り直すために「1年間の休止に入る」と発表した。6月以降チームの活動状況は更新されておらず、運営側にコメントを求めるも回答がない。

 最近のFCソチの活動以外に、2003年以降、ソチはサッカーチームの運営に5回失敗している。いずれも金銭的な問題による破綻だった。

「ロシアのチームの財源がほぼ(政府の)予算でまかなわれていることが問題なのです。この件については、ソチ市予算でチームを支援できないということです」とユルチェンコ氏は語った。「ワールドカップ後に投資家が参入して、ソチのサッカーチームで2019年シーズンを戦えるよう期待しています」。

By JAMES ELLINGWORTH, Sochi (AP)
Translated by Naoko Nozawa

Text by AP