トランプ氏は来てほしい、でもノルウェー人が「米国に移民したくない理由」

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 トランプ米大統領が「なぜわれわれは糞溜め(Shithole)のような国からの移民を受け入れているのか」と発言したという報道を受け、「糞溜め」と名指しされた(らしい)ハイチやエルサルバドル、アフリカ各国が抗議の声を上げる中、もう1つ逆の意味で注目を集めた国がある。それはトランプ大統領が「なぜこのような国からの移民を迎えないのか」と例に挙げたノルウェーだ。アメリカはノルウェー移民を拒んでいるわけではもちろんない。しかし、ノルウェー人はアメリカに来たいのだろうか? どうもその答えは「NO」であるらしい。

◆減少を続けるアメリカのノルウェー移民
 アトランティック誌電子版の1月12日付記事によると、ノルウェーからアメリカへの移民数は年々減少傾向にあるという。同記事によると、アメリカで2016年に永住権(グリーンカード)を得た外国人数は118万人。なんと、ノルウェー人はそのうちたったの362人だったという。また、同年にアメリカ国民になった永住権保持者75万人のうち、ノルウェー人はわずか93人だったというから驚く。

 アメリカのノルウェー人移民の少なさは、ノルウェー人にとって母国が「離れたくない国」であることの証明ともいえるだろう。またこの記事によると、19世紀後半から20世紀前半までノルウェーからアメリカへ渡った移民が多数いたものの、その約7割がノルウェーに帰国した事実もあるという。

◆社会福祉制度の進んだノルウェー、遅れたアメリカ
 では、現代ノルウェー人が「アメリカに移住したくない」具体的な理由は何だろうか? まずは、ノルウェーが世界で最も社会福祉制度の進んだ国であるという点が挙げられるだろう。ノルウェーは、国連開発計画(UNDP)による「人間開発指数(Human Development Indicators、HDI)」が0.949と世界第1位。

 また在ノルウェー日本国大使館の資料によると、同国では「労災、疾病、妊娠、出産、葬儀などに関る給付を受けることができる政府管掌の強制保険制度」である国民保険があり、加入者は医療費が無料。また老齢年金、障碍年金とあらゆる年金制度が整うほか、公立校の学費は大学まで無料、育児給付は46週間まで給与の100%、56週間までは給与の80%が保障される(うち12週間は父親のみが取得可能)と、アメリカとは比較にならないほど社会福祉および保障制度が整っているのだ。

 またCNNの2017年3月21日付記事によると、ノルウェーは2017年度版「世界一幸せな国」ランキングで第1位に輝いた。ちなみに2位はやはり北欧のデンマーク、アメリカは14位という結果だった。

 もちろんアメリカにも長所はある。しかし社会福祉という点では世界の先進各国からかなりの遅れを取っており、国民皆保険制度や政府により定められた育児休暇や給付もない。また健康保険料や医療費、物価、住宅費は年々右肩上がり……という状態で、低・中所得者層が暮らすには非常に厳しい国だ。「アメリカンドリーム」を実現することは可能でも、同時に「持つ者と持たざる者」の貧富の差はどんどん広がるばかりなのである。
 
◆殺人率がアメリカに比べ格段に低いノルウェー
 またノルウェー人がアメリカに移住したくない理由の1つには、アメリカの「銃の普及率と犯罪率の高さ」も挙げられるはずだ。2016年2月3日付のCBSニュース記事によると、2010年の「銃による殺人率」はアメリカが人口10万人中3.6、ノルウェーは0.0。銃以外もあわせた「総合的殺人率」はアメリカが5.3、ノルウェーが0.7だった(ちなみに日本は0.3で、英国と並び殺人率は先進国で最低水準)。

 これではいくらトランプ氏が金髪碧眼の多いノルウェーからの移民を望んだところで、当のノルウェー人が「No thanks」と言うのは無理もないだろう。

 ちなみに、筆者の住むハワイ州には北欧各国から訪れる旅行者や留学生がかなり多い。その1人に理由を聞いてみると、「ハワイのビーチと太陽が好きだから」という答えが返って来た。確かに、燦々と輝く太陽と青い海はアメリカにあってノルウェーを含む北欧にはないものだ。

 しかしそんな人々もハワイに定住するわけではなく、いずれ母国に帰って行く。人生を長い目で見た場合、充実した社会福祉制度を持つ国で暮らしたいと思うのは当然のことなのである。

Text by 川島 実佳