「野生動物にとって大きな苦痛」自撮りをする前に知っておきたいアマゾンの論争
もし、アマゾンへ観光に訪れる予定があるならば、ツアーを選ぶ前に、野生動物と一緒に自撮りを行うことの是非を問う論争を心に留めておくと良い。
動物擁護団体であるワールド・アニマル・プロテクションは、ナマケモノのような野生動物にとって、観光客が抱きかかえて一緒に写真を撮るために捕獲され檻に閉じ込められることは非常に大きな苦痛となる、という報告を行った。インスタグラムは、#slothselfie(ナマケモノとツーショット)といったハッシュタグ検索の結果に対し、以下のような警告を出してユーザーにこの問題についての啓蒙を行っている。「あなたは、動物や環境への暴力または有害な行為を助長する投稿に関わる可能性があるハッシュタグを検索しています」。
ワールド・アニマル・プロテクションのグローバル野生動物アドバイザー、ニール・ドゥクルーズ氏は電子メールを使ったインタビューで、「アマゾンを訪れる観光客には、もし野生動物のことを思いやる気持ちがあるならば、動物たちを休暇中の楽しい写真の小道具として使うべきではない、と知ってもらいたい」と話した。「現実問題として、『野生動物との一度限りの自撮り』が動物たちの深刻な苦痛となっている」 ドゥクルーズ氏は、観光客の自撮りに使われる多くの野生動物は、本来の生息場所から連れて来られ、「不適切な環境」下に閉じ込められ、一日に何十人という観光客に抱きかかえられ、しかも観光客たちはそれら動物たちが経験している「ストレスや怪我についてほとんど気づいていない」と話した。
ドゥクルーズ氏は、この解決策は観光客の啓蒙にある、と言う。同氏は、インスタグラムが野生動物との自撮りに関するハッシュタグに対する警告を出すようになったこと、および、トリップアドバイザーが2016年以降、観光客が檻の中の動物や野生動物たちと物理的に接触できるアトラクションの予約を禁止するようになったことに敬意を表した。また、ドゥクルーズ氏は、ジャングル内のロッジでの滞在や先住民の文化体験といった動物との自撮りの代替となりうる選択肢にアマゾンの観光を発展させ得る「大きな可能性」がある、と語った。
ナショナルジオグラフィックのレポーター、ナターシャ・デイリー氏は、ワールド・アニマル・プロテクションの調査結果を確認するためにアマゾンを訪れた。同氏は、ブラジルのマナウスの当局者が写真の小道具として野生動物たちを使うことを積極的に取り締まっていることを確認した。そして、「私が現地に滞在した8月の中旬までには、多くのツアー主催者が野生動物たちの捕獲場所に行くのをやめてしまった」と語った。しかし、実際にはペルーのプエルト・アレグリアではこの問題が根強く残っており、デイリー氏は3日間で20種類の野生動物たちが観光客のために捕獲され、移送されたのを目撃した。ペルーに隣接するコロンビアのレティシアからアマゾン旅行に参加する観光客の多くがプエルト・アレグリアにも滞在する。
観光客から野生動物との自撮りのチャンスへの執着を遠ざける上での課題は、アマゾンの野生動物は発見や観察が難しく、ナマケモノ、キンカジューや大蛇などが自撮りのパートナーとして捕獲され、それを売り物にする日帰り旅行によって観光客がそれら野生動物と気軽に触れ合えるようになってしまっていることだ、とデイリー氏は語った。ジャングル内のロッジでの滞在を数日間にわたり経験することは、そういった日帰り旅行の代替となりうるが、旅行者にとって金銭的、時間的な負担も大きく、事前の計画も必要となる。それでもなお、この問題について人々を啓蒙し続けることは、動物を抱いたり一緒に写真を撮ったりすることが野生動物たちを傷つけているとは知らなかった動物愛好家の行動に対し、特に顕著な影響を及ぼす可能性がある、とデイリー氏は言う。「ただ野生動物を観察するだけ、という行動の一線を越え、彼らに触れよう、撫でよう、抱きしめよう、という行動に出てしまったが最後、野生動物に悪影響をもたらすようになるだろう」と同氏は話した。
ドゥクルーズ氏は、野生動物をペットとして飼うことは、猫や犬を飼うこととさほど変わらない、とするツアーガイドの主張に異議を唱えた。そして「観光客の大半は、たとえばカイマンワニの口はテープで締め付けられて開けられないようになっていたり、アナコンダは深刻な脱水症状の環境下に置かれていたりすることを認識していない」とも語った。さらに、多くの自撮り写真ではナマケモノは喜んで観光客に微笑んだり抱きついたりしているように見えるが、実際はまったくそうではない、と同氏は言う。嬉しそうであるかの表情はもともとナマケモノの口吻の形状であり、観光客に抱きついているのは単なる木登りの習性に過ぎない。
ブラジルのアマゾン川流域の国立公園の多くは、観光客やツアーガイドがどのように野生動物と関わればよいかについてのガイドラインを定めている。たとえば、アナヴィルハナス国立公園には、その地域で有名なアマゾンカワイルカへの関わりを細かく制限したルールがある。
テ・バティスタ氏は、20年にわたってリオ・ネグロでツアーガイドを務めているが、野外での野生動物の観察と、檻の中の動物の観察を明確に区別している。「観光者から『ソーシャルメディア上で見たことがあるような写真を私も動物と一緒に撮りたい』という依頼を受けたら、私は、『それらの写真は、捕獲されて檻の中で飼われている動物と一緒に撮った写真なのだ、ということを理解して欲しい』と話すことにしている」と同氏は言った。その多くの場合、観光客たちは興醒めする、とも追加した。しかし、観光客によく見てもらうため、カイマンワニを数分間、水の中から外に出すこともある、ともいう。「10分経てば、またワニを水中に戻す」とも語った。「しかしながら、カイマンワニを捕獲してしまうとなると、話はまた別だ」とも語る。
28年間のツアーガイド経験を持つエニルソン・メスキータ氏は、観光客が野生動物に触れるのを許そうとしない。「旅行者がアマゾンに来るとき、虫除けスプレー、常用薬、日焼け止めなどを持参する。それらが旅行者の手指に付着しているかもしれない。動物を抱きかかえたりすると、それらの薬品が直接、動物の皮膚にも付着する」。
しかし、一部の当局者は、外部の人が地方の観光振興の努力を判断したり妨害したり、観光の運営はどうあるべきかを指図することは理不尽だ、と考えている。
ブラジルの観光局、エンブラツールの局長であるヴィニシウス・ルーマーチェス氏は、このように広大な地域で観光客がどのように野生動物と関わるのかを監視し規制することは不可能であると言った。ブラジルはアラスカを除いたアメリカ合衆国よりも広大で、アマゾン盆地はブラジル領土のおよそ60パーセントを占める。
「先進国がその領域を開拓した時には貴重な生態系を十分に保全しようとしなかったが、ブラジルは、その重い責任を先進国から継承した立場にある」とルーマーチェス氏は言い、多くのブラジル人がこの件に関して抱いている共通の不満を表明した。「先進国は、歴史上、その職務を一向に全うしていない。ヨーロッパの例を見ると良い。いったいどれだけの生態系が守られたというのか?」
同氏はさらに言う。「教育や保健医療がまだ十分に行き届いていない途上国である我々ブラジルが、アメリカ合衆国の面積の60パーセントの広さの領域いたるところに住むカイマンワニの頭を観光客が撫でることを規制するよう全世界が期待している、というのか? そのようなことは不可能だ」。
ブラジルの国立公園サービスに相当するチコ・メンデス生物多様性保全研究所の公用地利用コーディネーター、ペドロ・クーニャ・メネゼス氏は、「問題は写真なのではない。動物を抱いている人が問題だ」と言う。そして、野生動物に触れることは違法だ、と付け加えた。
メネゼス氏は、ごみの不法投棄から野生動物に対する虐待まで、観光客の行動に関する多くの苦情が国立公園に寄せられている、と言う。公園のレンジャーたちが観光客のとんでもない行為を目撃したり、ソーシャルメディアに投稿された写真などによってそのような違法行為の存在が証明できたりすれば、観光客に罰金が科せられる、とメネゼス氏は語った。
By PETER PRENGAMAN and BETH J. HARPAZ, AP
Translated by ka28310 via Conyac