レイプに対する「日本の沈黙文化」、海外の視線集まる 伊藤詩織さんの訴え

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 元TBS記者の山口敬之氏から性的暴行を受けたとするフリージャーナリストの伊藤詩織さんの訴えが、海外メディアで大きく報じられている。ハリウッドの有力プロデューサーのセクハラ問題をきっかけに、アメリカのみならず世界各地で「#Me Too」ムーブメントが広がった。だが詩織さんの事件が示すように、日本では性的暴行やいやがらせを受けた女性への理解は依然として低く、被害者にとって非常に厳しい社会だと指摘されている。

◆取り止められた逮捕。事件はもみ消されたのか
 政治誌ポリティコに詩織さん本人が寄せた記事によれば、詩織さんは2015年4月、就職相談のため山口氏と食事をした。途中すし店で気分が悪くなったところまでは覚えていたが、翌日意識を取り戻したのは東京のホテルで、すでに山口氏にレイプされた後だったと述べている。

 警察にレイプ被害を届け出た2ヶ月後、防犯カメラの映像や2人を乗せたタクシー運転手の証言が得られたことで、担当の高輪署の捜査官が山口氏の逮捕状を得たが、警視庁刑事部長の指示で逮捕は取り止めとなった。事件はその後警視庁に引き継がれたが、結局山口氏は2016年7月に不起訴処分となる。詩織さんはその後も検察審議会に審査申し立てをしたが、2017年9月に「不起訴相当」の議決が出ている(ポリティコ)。

◆世界は性的暴行に厳しい目。日本では注目されない
 山口氏の逮捕が取り止めとなったとき、詩織さんはメディアに話すことしかほかに道はないと思ったという。信頼するジャーナリストに話をしたが、取り上げてくれたのは当時1社のみだった。(山口氏が安倍首相と親しい間柄だったという)政治的に敏感な状況ではあったものの、性的犯罪は「存在」しない、黙して語らずというのが、通常の日本のメディアだと詩織さんは指摘する。レイプという言葉さえタブーで、被害者が未成年であれば、「乱暴された」、「いたずらされた」などの表現に置き換えられてしまい、大衆が事実を知らされない一因になるとしている(ポリティコ)。

 詩織さん事件を一面で大きく報じたニューヨーク・タイムズ紙(NYT)も、別の場所であれば大騒動になったかもしれないが、日本ではわずかな注目しか集めなかったと指摘する。アメリカでは性的な不正行為が首都、映画界、シリコンバレーやメディアまでを揺らしているが、詩織さんのケースは、日本ではいまだに性的暴行が避けられる話題のままであることの紛れもない例だとする。そして、日本は女性がレイプ被害をほとんど警察に通報せず、通報しても、彼女らの申し立てが逮捕や起訴につながることがまれな国だと述べている。

 駒澤大学の社会学教授、片岡栄美氏は、性的暴行やレイプの被害者が表に出ることがまれな日本においては、詩織さんのケースは注目を浴びるかもしれないが、重大な変化を引き起こすことはありそうもないと、悲観的な考えをシンガポールのストレーツ・タイムズ紙に示している。

◆激しいバッシング。被害者の声は聞き入れられない
 ストレーツ・タイムズ紙は、日本の最新の犯罪白書に触れ、レイプ、強制わいせつともに数字の上では減少傾向だと指摘するが、これは通報する被害者が少ないことによる可能性もあると見ている。前出の片岡教授は、被害者が通報をためらうのは、日本が男性優位の社会であり、女性は家族や周りの人々に合わせていくことを求められるためと指摘する。性的被害やレイプを公表すれば、それは「不都合な事実」となり、家族や周囲に批判されることになる。また、警察は「明らかな証拠」がない限り申し立てを受け入れてくれないため、関係当局に事件を認識させるのも困難だとしている。

 詩織さんの場合は、声を上げたために、全く知らない人々からもバッシングを受け、「ふしだら」「娼婦」「死ね」などとソーシャルメディア上で罵声を浴びせられている。男性のみならず女性からも、自分で自分の身を守らなかったと批判を受けた。また、シャツの一番上のボタンを留めなかったことで信用できないとされ、それがレイプされた原因だとまで言われた。詩織さんは、着る物、行くところ、ふるまいなどによって日本社会は女性側に非があるとして、被害者を責めると断じる。また被害者は被害者らしく振舞えという忠告にも、疲れてしまったと述べている(ポリティコ)。

◆他人事で終わらせていいのか。性暴力は社会が解決する問題
 詩織さんは、昨年10月の外国特派員協会での会見で、レイプ被害を公表し本を執筆した理由として、もしも自分の妹や友人が同じ被害にあった場合、今自分が話さなかったことにより、同じことがくり返されてはいけない、彼らに負担をかけたくないと思ったからと話している。そして、ぜひ事件を自分のこと、自分の大切な人のことに置き換えて考えてほしいと訴えた。

 日本で「#Me Too」ムーブメントがあまり盛んではないのは、被害者が表に出ないからではなく、日本社会が彼らに沈黙を求めるからだと詩織さんは述べる。そして社会は(被害者に)耳を傾ける必要があり、この沈黙を破るという責任を被害者だけに任せるべきではないと主張し、制度や法律を大きく変える必要があるとしている。詩織さんは、昨年9月下旬に山口氏に対し民事訴訟を起こしており、正義のために戦うと表明している(ポリティコ)。

Text by 山川 真智子