乳児同伴の議場入り、問題提起になったと海外は評価 社会の「不寛容さ」にはチクリ
11月22日、熊本市の市議会で、生後7ヶ月の長男を同伴した緒方夕佳議員の出席が認められず開会が40分遅れるという出来事があった。結局緒方議員は長男を友人に預け議会に出席したが、その行動への賛否は国内でも大きく分かれている。一方海外大手メディアは、これまで赤ちゃん同伴のママさん議員のニュースを肯定的に報じており、ルールだからと阻む日本的やり方はいかがなものかと疑問を呈している。
◆子供同伴を拒否。議会は男性中心
英ガーディアン紙は、イヴァンカ・トランプ氏が女性の社会参加における日本の進歩を褒め称えた数週間後、同僚から7ヶ月の赤ちゃんの同伴を拒絶されたため、女性政治家が議場から去ることを強いられたと報じている。議会に子供を同伴してはならないというルールはないのに、同僚議員が赤ちゃんはビジターだと主張し、「傍聴人は議場に入ることはできない」という理由で退席させたと説明している。
BBCもこの事件を伝えており、繰り返し市議会事務局に長男同伴の許可、または託児施設の設置を求めていたが、ポジティブな返答がなかったため長男同伴を決めた、という緒方議員のコメントを掲載している。ただし、緒方議員は不安を示したものの、子供を同伴したいというリクエストはなかったという事務局側の言い分も併記した。
ワシントン・ポスト紙(WP)は、緒方議員の行動を「全く持って軽率」と男性議員が騒ぎにしてしまったとし、議場で緒方議員が数人の議員に詰め寄られている写真は、まさに「働く母親」対「男性上位制」だと評している。
◆海外は母親議員を考慮。ルールに厳しすぎるのは日本だけ?
WPのインタビューに答えた緒方議員は、今回の行動について、「息子を連れてきて、子育てに苦労する母親の声を届けたかった」「女性は仕事も子育てもどちらも犠牲にすることなく、うまく両立できることを望んでいる」と述べている。海外メディアは、保育所不足や結婚すれば子育てのため退職せざるをえない日本の現状を伝え、緒方議員の行動は、それに対する問題提起となったと総じて高く評価している。
シンガポールのチャンネル・ニュース・アジアもその一つだが、オンライン上では賛否が分かれたと報じている。緒方議員の行動を勇敢と評し、彼女が行動しなければ、人々は働く女性が抱える問題を真剣に考えなかっただろうという意見もあったが、仕事と子育ての両立は、職場で子供と過ごすことを意味するのではないという苦言もあったと伝えている。
実は海外では、議員の子連れ出勤は肯定的に報じられてきた。WPは欧州議会のイタリア人議員が、生後1ヶ月から子連れで議会に出席していることや、オーストラリアの議員が同国議会史上初めて議場で授乳したことなどを紹介している。しかしそれとは対照的に、緒方議員の場合は妊娠8ヶ月の時に議会で座って質問をしただけですでに波風も立っていたと指摘している。また、国会議員の金子恵美氏が自身の事務所がある議員会館内の託児所に子供を送るのに公用車を使ったとマスコミから責められ、謝罪をしなければならなかった事件も上げ、こうした規則は規則だから曲げるべきでないというエチケットに縛られた日本の不寛容さが、女性の社会進出を困難にしていると見ている。
◆問題提起には成功も、女性活躍の道は険しい
WPは、熊本市議会の沢田議長の「緒方議員のおかげで、海外ですでに議会に子供同伴で来る議員がいることを知った。女性議員の働く環境を改善するため、緒方議員の提案を考慮したい」というコメントを紹介し、緒方議員は少なくとも政界にいる母親についての認識を高めるのに成功したと述べる。日本で仕事と子育ての両立が難しい理由は、意思決定のプロセスに子供を持つ女性が関わっていないからだと緒方議員は述べ、それを変えていく決意だと語っている。
もっとも海外メディアは、今の状況では、安倍首相が目指す女性の活躍は程遠いと指摘する。チャンネル・ニュース・アジアは、日本の衆議院では女性議員はわずか10%ほどだと指摘し、これはミャンマーや西アフリカのガンビア以下だと述べる。BBCは、日本のジェンダーギャップは埋まらないと述べ、2017年の世界経済フォーラムの男女格差報告では、日本は144ヶ国中114位だと紹介している。