日本を再生させる「移民」という切り札 親日国から段階的に開始を
著:毛受敏浩(日本国際交流センター執行理事)
人口減少は今後、加速度を増していく。本年4月に発表された国立社会保障人口問題研究所の将来予測は、2017年から2037年までに東京都の人口に匹敵する1300万人が減少するとしている。2020年代の減少だけでも620万人、これは千葉県の人口に匹敵し、北海道や四国4県の人口よりはるかに多い。しかもこの急激で大規模な人口減少が、さらなる少子高齢化を引き起こしながら、終わりなく続く以上、日本の存続にかかわる重大問題といわざるを得ないだろう(図1)。
◆遅れる政府の対応 東京も人口減少へ
一方、国民の間には人口減少の危機感は乏しく、とりわけ東京在住者にとっては地方の問題としてしか認識されていないかもしれない。しかし、東京においても2025年をピークに減少が始まることが予測されおり、最終的には他の地方と同様に高齢化、人口減少という「静かな大津波」に翻弄される時代が来る。
こうした危機的な状況を目前にしながら、政府の対応は極めて不十分と言わざるを得ない。2014年には出生率の改善と地方への人口移動を目的として、地方創生法が作られ、初代の地方創生大臣に石破茂氏が就任し、数千億円の年間予算によって大々的に事業が開始された。しかし、現在になっても出生率は一向に改善ざれないばかりか、東京への人口移動はかえって悪化する結果となった。国民所得が高くワークライフバランスが日本より優れるドイツにおいても出生率が日本並みであることを考えれば、人為的に出生率を上げることがいかに難しいかが理解できる。
◆全国で急増する在留外国人
一方、急速に悪化する人手不足によって、国内で急増しているのは在留外国人の数である。サービス業や工事現場、農林水産業などのブルーカラーの分野では外国人労働は原則認められていないにもかかわらず、人手不足のために便法としての「出かせぎ留学生」や技能実習生が激増している。その数は2016年には15万人とかつてない増加となり、さらに47都道府県すべてで増加するという異常な事態となった。移民政策をとらないという方針にもかかわらず、人手不足、人口減少が続く限り、実質的な移民の数は増加することを示している。
たとえば、沖縄県では2016年10月時点の外国人労働者5,971人のうち国別ではネパールが最も多く、1,610人を数え、その96%が留学生という異常な状況となった。彼らの大半は労働目的での来日であり、勉学目的でないことは明らかである。留学生では週28時間を超えて働くことは違法であるが、その多くが掛け持ち労働で違法状態にあることが推測できる。政府の移民政策の欠如が大きな矛盾を生む結果となっている。
◆移民という切り札 期待できる相乗効果
しかし、見方を変えれば、日本は「移民受け入れ」という最後の切り札を温存してきたといえる。
国の対応が遅れているのに対して、草の根レベルでは自治体やNGOが外国人住民の支援活動として「多文化共生」に過去20年以上にわたって積極的に取り組んできた。自治体の施策として、教育や言語面などで外国人住民を支援する「多文化共生推進プラン」は全自治体の40%がすでに策定済である。拙著の『限界国家』(朝日新書)では、地域社会の受け入れ態勢を強化することにより、親日国から段階的に一定の日本語のできる青年を受け入れることを提言し、多くのメディアの関心を集めた。人口減少の深刻化する中で、一般国民の間にも、移民をタブー視する意見が徐々になくなり、移民政策の必要性についての理解が徐々に広がりつつある。
日本にふさわしい移民政策の構築は、人口減少を緩和し、社会の持続可能性の確保の上で必要不可欠と考える。また移民の受け入れによって、単なる労働力の確保の視点だけではなく、日本人青年がハングリー精神を持った移民から刺激を受け、両者が協力し、また切磋琢磨する関係を築くことで、日本再生のための切り札となり得る。外国人と日本人が協力して起業する例も徐々に生まれている。
◆伝統文化を支える存在にも
さらに地方の伝統文化を維持するうえで外国人の役割が注目される。たとえば、秋田県男鹿市では伝統文化の「なまはげ」が、人口減少と高齢化によりその四割以上が消滅した。ところが、国際教養大学の留学生がなまはげ役を担うことで、一部の地域ではなまはげが復活した。地域社会への若者の増加は、国民の閉塞的な意識や将来への不安意識を転換する上でも大きな効果があるといえる。
近未来の人口激減時代は直前に迫っている。日本の明るい将来のために、移民受け入れのための国民的な議論と政府による積極的な対応が求められる。