赤ちゃんではなく10歳前後の子の母親が一番落ち込む理由とは
著:Lucia Ciciolla(アリゾナ州立大学 Postdoctoral research associate)、Suniya Luthar(アリゾナ州立大学 Foundation Professor of Psychology、コロンビア大学ティーチャーズカレッジ Professor Emerita)
母であることの喜びは年とともに一進一退する。母親にとっても最も大きな試練の時の1つを推測せよ、と言われれば、赤ん坊の世話をして睡眠時間が奪われることを考えて、新生児を自宅に連れて戻った時だと思うだろう。ところが、驚くなかれ、我々の最新の研究によれば、母親にとってもっとも大変な時期は子どもがミドルスクール(日本で小学6年〜中学2年生に相当する)に通う時期なのだ。
我々は赤ん坊から成人までを子どもに持つ2200人以上の母親を対象に調査を行い、母親の個人的幸福感、育児、我が子に対する認識の様々な点について検討した。調査対象の母親の大部分は高等教育を受けていた。我々の調査の結果は、ストレス感、うつ状態のグラフが逆V字形を示し、ミドルスクールに通う子(11歳または12歳の「トゥイーン」)をもつ母親が一貫して最も低迷し、赤ん坊や成人の子をもつ母親は最も順調だった。
結論から言うと、子どもの幼年期には極度の疲労と過剰な負担感から母親は赤ん坊の世話をすることの大きな満足感、充足感を覚える。だが子どもが思春期に近づくと、母親は我が子とのやり取りにますます前向きの気持ちが薄れ、育児の苦労ははるかに複雑になってくる。
母親の観点からいえば、「小さな子には小さな問題、大きな子には大きな問題」ということわざの中には偉大な心理が込められている。10歳前後の頃にはいくつもの要因が嵐のようにどっと押し寄せてくる。一方で、子どもは思春期とホルモン、ニキビ、身体の変化など思春期につながるすべてに対処しなければならず、他方で、酒、薬物、セックスの経験に興味を覚えやすい。子どもたちは、大きな校舎や授業ごとに変わる教師、ますます規模が大きくなる標準テストや大学受験(そう!この年齢からもう大学受験の準備は始まるのです!)など、学業や課外授業からのプレッシャーを受け、比較的人間味のない学校環境への変遷を真似する。最後に、この年齢の子どもたちは自分がどんな人間であるかが分かるようになり、親離れをして友達のグループに受け入れてもらうことに注意を向けるようになる。多くの場合、これには限界への挑戦やリスクを負うことが伴う。
それは一遍に対処しなければならない大変な変化だ。そして子供たちがこれらの主な困難のすべてを必死でうまく切り抜けようとするため、母親も子どもの主たる保護者としてそうしなければならない。
母親は本質的に、子どもの悩みに対する「第一応答者」であり、抱擁や愛情のこもった言葉や寝る前のおとぎ話はもう通用しないため、子どもに癒しと安心感を最高に提供する方法を見つけ出さなければならない。何を許し、どこで線引きをすべきかを決めることにうろたえ、恐れさえ抱く。我々は子どもが親に何でも話してくれ、支えとなってくれることを期待するが、悪いことや危険なことを赦しているように見られることなくそれを行なう方法について思い悩む。自信に満ちた母親でさえ、ああすればよかった、こう言うべきだったと後悔し、正しい判断を下したのかどうか不安になり、毅然として子供に譲ることを拒否することにうしろめたさを覚える。
そしてその後、もちろん、母親は多くの場合、急激な子供の人格の変化に直面する。日々のやりとりの中で子供の行動が日ごとに変わっていくことがあるためだ。愛情に満ちて幸せな1年生は想像もしていなかったむっつりした若者に変貌する。ある日は優しくて思いやりがあると思えば、次の日にはなだめられないほど閉鎖的になるといった具合だ。
親の顔をまじまじと見る十歳前後の子は目新しくはない。新しいのは、このような行動が母親に深い苦痛を与えることがあるという我々の研究の証拠だ。子供を始末に負えない、言うことを聞かないと見る女性は最も悩みの深い女性だった。
我々の研究結果の中心的な重要事項は、親を心底傷つける子離れは、文字通り子供が巣立つ時ではなく、成長するための複雑な取り組みの中で心理的に巣立っていく十歳前後だということだ。
特に比較的高学歴の母親にとって、子どもが十歳前後の頃は、精神的負担に加え、時間とエネルギーもますます必要になってくる。純粋な時間数でいうならば、大学を卒業した母親はそうでない母親や高学歴の父親と比較して子供の課外活動に費やす時間が急速に増えていた。時間に加えて、締め切りに柔軟性がないことが多い、そして多くは1人以上の子どものための1日のイベントを企画、計画、参加、移動し、それに伴う大きな精神的代償がある。
そしてこれらすべてが訪れるのは、多くの母親が身体能力、認識能力の衰えにより中年期に差し掛かった兆候を初めて経験し、死に対する意識が高まった頃だ。また我々独自の研究以外の複数の研究によると、この時期は結婚生活の満足度が最も低く、夫婦間の対立が最も多い。
ミドルスクールに通う子の母親がこれほどのストレスを感じているのももっともなのだ。
来るべきストレスの猛襲に立ち向かうには、母親はそれに対する備えをしておかなければならない。書籍やオンラインの資料もその一助となるだろう。しかしミドルスクールに通う子の母親は親密で信頼できる本物の友情を通しても元気を取り戻すことができる。それ以前の研究では、母親としての課題を通して他の母親と友情を結び衝撃を和らげる女性の中に、大きな保護の可能性が示された。だからこそ母親は、自身を支えてくれる友人を1つの選択肢としてではなく、不可欠なものとして扱い、特に子供のミドルスクール時代には友情を保つべきだ。
最後に、母親はミドルスクール時代にずっと子どもに向き合い続けているからこそ、元気を取り戻すことができる。これを経験しておけば物事はずっとやりやすくなるはずだ。ミドルスクールに通っていた子どもは高校生になり、大人になる。我々のデータには、もっとも幸福な母親は子どもが成人した母親であることが示されている。「空の巣症候群」の大部分は迷信だ。我々は単なる子供の保護者ではない。「我々も人間なのだ」ということをいつも覚えていることも役に立つだろう(本当に冷蔵庫にそう書いて貼っておいてもいいくらい!)
This article was originally published on AEON. Read the original article.
Translated by サンチェスユミエ