不平等が拡がっているが、これまで以上に多くの人が気付いていない

Donatas Dabravolskas / Shutterstock.com

著:Jonathan J.B. Mijsロンドン・スクール・オブ・エコノミクス Assistant Professorial Research Fellow、ハーバード大学 Fellow in Sociology、Visit Dr. Mijs’ website here

 アメリカでの不平等が拡がっている。1980年代以来、社会における所得はトップに集中してきた。今日、社会のトップに位置する10%の人々は、所得総計の30%を受け取り、財産総計の4分の3以上を所有している。この所得不平等のレベルは、1920年代~1930年代の世界大恐慌の頃のものほど悪い。

 アメリカにおいて、誰が何を手に入れるかということは、その人の人種性別家族の資産等に影響され続ける。しかし、ここで驚くべきことは、この事実をほとんどの人が気付いていないということである。

 国際社会調査プログラムによると、人々はますます社会を実力主義のものであると考えるようになっているという。つまり、学校やビジネスでの成功は、単に努力や才能を反映していると。アメリカ人が最もこのように考えているが、世界中の多くの人々もこの考えを確信するようになってきている。

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 上記のデータは驚くべきパターンを示している。社会の不平等が大きいほど、人々はそれに気がつかないものである。逆説的に、最も不平等の大きい国々の人々は、彼らの社会は実力主義の典型なのであると考えているのだ。この現象はどのように説明できるだろうか。

◆不平等という考えの形成
 私の研究論文では、人々の信念は子ども時代の経験に基づいて形成されるという考えを調査した。

 研究によると、社会経済的に、また人種的に多様な環境にいる人々の方が、人種や財産などの構造的な要素が人の人生の結果に影響すること、つまり、その人の家族の資産や、性別、肌の色などがその人が大学に入学したり就職をする機会などに影響するということを、より認識している。

 しかし、所得の格差が拡がり、人種的分離が進んでいることからも、現代のアメリカ人は1970年代よりも経済的に多様でない環境で暮らしていることになる。その結果として、所得格差の両側に位置する人々は、その格差の大きさを見ることが出来ない。格差が大きくなるほど、反対側に位置する人々の生活を見ることが難しいのだ。不平等の拡大は人々にその全体像を見えなくしている。

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 私はオンライン調査で300人の回答者に人がなぜ大学を卒業したり中退したりするのか、仕事での成功とは何か、どのようにしてある人が問題を起こさないようにできるのか、また、なぜある人は牢屋に入ることになってしまうのか、という質問について回答を求めた。

 回答者は概して、これらの結果を実力主義の要素の点から説明した。頭が良ければ大学に入学し、勤勉に働けば昇進する、警察に礼儀正しく対応することでスピード違反の反則をとられないかもしれないということである。以下のような回答もみられた。「人々は大抵、人生において成し遂げたいことを実現することが可能であると思う。もしそれが出来ないならば、彼らの努力が足りないか、怠惰であるか、やる気がないか、そのような理由であろう」。

 しかし、回答者は構造的要素がどのように人生の結果に影響をするか気づいていないわけではなかった。生徒が大学に行く準備をするのにより良い学校がある、家族のコネが就業や昇進を手助けする、貧困の地域に暮らすことで、警察のレーダーの下に置かれることなどを認識していた。ある回答者は、「多くのケースにおいて、人生の結果は特権と人種によって、もしくはその欠如によって決定される」と記入した。

 記入された回答を回答者のバックグラウンドに照らし合わせてみると、有力な結びつきを発見することができた。社会経済的、もしくは人種的に多様な環境で育った人々の方が、約20%多く、人生の結果を構造的要因の点から説明しているのだ。言い換えると、均一的に裕福であったり、白人居住の地域で育った人々は、成功を実力主義の視点から捉えていたのだ。

◆不平等について学ぶ
 どのように人々が不平等について学ぶかということを詳しく見るために、私は国の代表サンプルである14,000人の、99の大学に所属する学生に調査をおこなった。私はこれらの学生が大学1年生の際に、人種の不平等と実力主義についての理解を質問し、また大学4年生になった際にも同様の質問をした。学生たちは、大学の学年が上がるにつれて実力主義を感じるのであろうか。それとも、不平等へを構造的影響という点から理解するようになるのであろうか。

 約半数の学生が、不平等についての自分達がもともと持っていた考えを変えなかった。約30%の学生は、不平等への構造的影響を理解するようになり、約20%が社会をより実力主義のものとして捉えるようになった。彼らの信念の形成に影響する3つの重要な要因は、大学の環境、異なるバックグラウンドを持つ仲間との交流、また寮におけるルームメイトである。

 人種的に均一的であり富裕層向けの大学環境に置かれた学生は、米国の不平等に対してより実力主義的な視点を持つようになる。

 反対に、他の人種グループの学生と頻繁に交流があった学生は、人種や所得格差について関心を持つようになり、実力主義に批判的になる。異なる人種のルームメイトを持つ学生は、不平等の構造的要因についてもより深く理解するようになる。

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Source: CIRP Freshman Survey and College Senior Survey

◆実力主義、共感と連帯感
 調査の結果から、どう人々が不平等を理解し説明するかで、他者への共感や連帯感が生じるということが分かる。私達は、自分達が悪いわけではないのに困難に直面している人々に同情をするものであろう。また、自分の間違った選択や努力不足に寄り、困難に陥っている人々にはあまり同情を感じないものである。

 このようにして、不平等の考え方は私達の刑事司法福祉所得再分配等の政策や政治を考える上でのスタート地点である。

 もし若者に自分達の住む世界へのよりよい理解を形成することを望むのであれば、私達は、若者が暮らす学校、大学や居住地域における社会経済や人種の区分を超えた多くの交流を生み出すような環境を形成する必要がある。これは、就学前教育への受け入れをすべての所得グループに可能にしたり、公立の学校での人種差別をなくすための手段を強化したり、寮のルームメイトを割当制やその他にも無料制度を導入することで、大学生活に多様性を増やす努力によって可能である。

 異なる社会階層への移動というアメリカンドリームのような機会を実現するためにはまだまだ大きな介入が必要である。次世代の選択肢がアメリカの明日を形づける。しかしながら、現世代の若者がどのような大人に成長し、どのような見通しを社会に見出すかということは、現在に生きる私達次第なのである。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Conyac

The Conversation

Text by The Conversation