世界の優秀な学生を日本へ 「国費外国人留学生制度」が生むウィンウィンの関係

 ここ数年、街で外国人を見かける機会が増えてきた。旅行者風のグループも多くいるが、学生と思しき若者を眼にすることもある。実は日本の制度として、政府の費用負担で外国人留学生を招待していることはご存知だろうか? 優秀な人材を集め、国際交流を図るこの制度だが、長期的には日本経済にプラスに働くという。文部科学省のウェブサイトによると、同制度は留学生の交流の促進と、(日本経済の)国際的な競争力の向上を意図している。日本の積極的な取り組みは海外メディアで取り上げられることも増えているが、どのように見られているのだろうか。

◆国際交流への扉
 制度の狙いのひとつは、留学生がもたらす国際交流だ。この点について、ブルームバーグはベトナムと東南アジアに注目した記事を掲載している。記事ではベトナムからの留学生が急増しており、2016年にはおよそ5万4000人になったとしている。日本は教育環境が良いわりに留学費用が安いことが魅力となっているようだ。

 一方、インドのメディアであるインディアン・エクスプレスは、日本政府からインド人学生に向けた奨学金制度が始まったことを報じている。記事によると、日本政府は2020年までにインド人学生の数を現在の倍にしようとしているという。また、奨学金の支給と授業料免除のほか、研究分野などへの就職の斡旋も行われるという、在インド日本国大使館の一等書記官のコメントを紹介している。

 また、ワシントンに本部を置くNGOであるCouncil on Hemispheric Affairsは、ジャマイカなどカリブ海地域との交流をウェブの記事で紹介。JETプログラム(外国青年招致事業)の一環として、カリブ地域からの英語教師などの受け入れ枠が2015年に2倍になっている。気になるのは日本の教育現場が彼らをどう見ているかだが、実は非常に評判が良いようだ。記事では、在ジャマイカの日本国大使館の公使のコメントとして、「労働倫理に優れ、個性があり、熱意と適応力に満ちている」との見解を紹介している。このように、留学生や教師との触れ合いをきっかけに、新しい国際交流の扉が開かれるのは、歓迎すべき点だ。

◆日本企業とのコンビネーション
「国費留学生制度」の狙いは国際交流だけではない。世界中に進出している日本企業にも、実用的なメリットが出るようになっている。ブルームバーグは、日本で学んだベトナムからの留学生が、帰国後に現地で日本企業に就職する形を例示している。そもそもベトナムの経済成長は世界トップレベルで、日本企業の魅力的な進出先になっている。過去には安い労働力を生かした工場を建てていたが、現在は経済力に注目して小売店なども進出している。そこで、言語と文化の違いの橋渡しをできる人物が求められているというわけだ。

 留学生側も帰国後の日本企業での就職を意識して留学しており、帰国後も現地の日本企業に就職口が広がることは、日本への留学の大きな魅力となっている。中には家族が投資として留学させている例もある、とブルームバーグでは報じている。ベトナムと日本の双方に経済的メリットが発生しており、国費留学生制度は非常に効果的な制度と言えるだろう。実際に日本で暮らした体験に基づいて日本文化を理解し、企業間の橋渡しができる人材が育てば、制度の意義は大きい。

◆日本 v.s. 中国
 日本がこれほど制度に力を入れているのは実は事情がある。中国が世界経済の中で影響力を高めており、それに対する焦りがあるためだ。前掲のCouncil on Hemispheric Affairsは、「ドラゴンの影」という見出しを打ち、カリブ諸国とラテンアメリカで中国が存在感を増していると指摘している。曰く、ラテンアメリカとカリブ諸国への経済援助は日本を優に超え、貿易額は4倍近くとのことだ。しかし、これだけ差があるにもかかわらず、日本側にも勝機はあるとの見方を伝えている。すなわち、日本は経済支援を通じてきちんとした技術移転を行い、また、現地の資材を使って現地経済に貢献する。中国の国営企業はこうした配慮がなく、また、環境基準を無視する場合もあるようだ。

 中国の存在については、ブルームバーグの記事でも触れられている。記事では、日本の留学生制度を、将来的に留学生の母国とのパイプを作るためのものと分析しており、東南アジアへの影響力拡大を日中両方が探っているとしている。

 国際交流を促す同制度。教育の現場で海外の文化に触れられるほか、もっと大きなスケールで日本経済にも寄与することが期待されている。現地メディアを含めた各媒体も、国としての思惑は指摘しつつも、おおよそ前向きな評価を与えているようだ。同制度を通じて、日本と海外の橋渡しをできる人物が多く育つことを願いたい。

Photo via Lucky Business/shutterstock.com

Text by 青葉やまと