家が買えない…豪州のミレニアル世代の悲痛な声 不動産ブームで表面化する社会の分断
オーストラリアは過去20年に渡り、総じて順調な経済成長を遂げてきた。医療、教育は国民全体に行き渡り、シドニーなどの都市は、住環境の良さで世界的に評価が高い。しかしオーストラリアの住宅価格は上昇を続けており、若い世代には持ち家は手の届かないものとなっている。すでに家と蓄えがある親の世代との格差は広がっており、「オーストラリアン・ドリーム」の終焉だと嘆く声も聞かれる。
◆住宅価格高騰。若者は親と同居で頭金作り
エコノミスト誌によれば、シドニーの住宅価格の中央値は110万豪ドル(約9000万円)で、この1年間でほぼ20%上昇したという。最近発表された研究では、所得比で見た場合、シドニーは香港に次いで世界で2番目に高い住宅市場にランクされている。オーストラリア全体では過去20年で価格は名目値で4倍となった。物価修正後だと2.5倍の上昇となっており、これはイギリスと同じで、アメリカよりもかなり高くなっている。この結果、家を買えない人が増加しており、この26年間で、35~44才での持ち家の割合は、75%から66%以下に低下している。
ガーディアン紙によれば、住宅価格の高騰で親元を離れられない人が増えているという。不動産データ分析を行うCore Logic社の調査によれば、親と同居している人の62%が、その理由を引っ越す余裕がないからと回答した。同居している人の27%は住宅購入の頭金を貯めていると回答したが、21%が少なくとも30才になるまでは、親と同居のままだと思うと答えている。ミレニアル世代(18~34才)で賃貸住宅に住んでいるのは38%で、親と同居は27%だ。60%は一度も家を購入したことがないが、96%が家を買うことは重要だと答えている。
◆世代間格差深刻。もはや自助努力では家は買えない
エコノミスト誌は、住宅価格が上昇する理由として低金利を上げるが、より大きな原因は人口の増加だと指摘する。オーストラリアの人口は年35万人増加しており、その半分は移民だ。急速な人口増加に住宅供給が追い付かず、当然価格が上昇する。そこを狙って投機家がやって来るため、さらに住宅市場が過熱すると説明している。
この状態にミレニアル世代は怒りを感じているが、上の世代は自助努力を期待する。昨年、会計事務所KPMGのパートナー、バーナード・ソルト氏は、「家を買いたい若者は、おしゃれなカフェで朝食を食べるのは控え、それを貯金に回せ」と新聞のコラムで提言した。これを読んだ若者は一斉に反論し、週末の贅沢として人気の朝食メニュー、「潰したアボカドとフェタチーズを載せたトースト」を48年間食べるのをやめても、シドニーの一般的な住宅価格の10%にしかならないという不満も出た(エコノミスト誌)。ガーディアン紙によれば、住宅購入希望者が認識する最大の壁は、頭金を貯めることだ。Core Logic社のカイリー・デイビス氏は、賃金の上昇と不動産価格の上昇を見れば、親の世代よりミレニアルのほうが不利であると指摘している。
ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)のオピニオンライター、リサ・プライアー氏は、すでに家を持ち、豪華なクルーズ船旅行や公的補助での医者通いに忙しい、甘やかされたベビーブーマー世代から、「今の若者は自分たちがいかに恵まれているかわかっていない」、「浪費をやめて貯蓄を」と説教されるのに、ミレニアル世代は飽き飽きしていると述べる。そして、若者にとって不動産価格は、打ち砕かれた希望と迫りくる世代間の戦いの象徴で、不動産ブームは年齢と社会階層による分断を作り出していると指摘している。
◆住宅バブルか?景気後退なら家計の負債が爆弾に
住宅バブルを懸念する豪政府は、宅地の供給を増やす、外国人投資家への規制を強化する、都市部の交通網を充実させ郊外から職場に通いやすくするなどの対策を発表している。その一方で、ネガティブ・ギアリング(所有者の住居以外の住宅を賃貸に出したときに発生する損失を、所有者の所得から控除できる制度)は廃止されず、依然として持てるものを利する状況となっている(エコノミスト誌)。
豪シンクタンク、グラッタン研究所によれば、オーストラリアの家計の負債は税引き後の所得の190%と過去最大となっている(エコノミスト誌)。NYTのプライアー氏は、負債の多くを占めるのは住宅ローンだとし、今後深刻な景気後退でもあれば、危機的な状況が訪れると警告している。
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