ポテトチップス・ショックで考えたい日本の農業問題
ポテトチップスがスーパーやコンビニエンスストアの店頭から消えている。昨夏の台風10号に代表される天候被害による不作で、メーカーに供給される北海道産のジャガイモに不足が生じたことが原因だ。ここ数年、バターの不足も目にするようになったがやはり供給不足による。不足が起こる原因と対策について考えてみたい。
◆増えるスナック菓子支出
ブルームバーグは、米ペプシコが20%の株式を保有するカルビーは、日本のポテトチップス市場の73%のシェアを持つと紹介し、米国産の輸入品や九州産のジャガイモの使用を進め、不足を解消したいとする公式のアナウンスを伝えている。一方、湖池屋は100%国産のジャガイモを使う考えに変更がないとしており、いずれにせよ2社ともに製品種類の絞り込みや供給不足が続くとみている。
総務省の家計調査年報の支出推移を見ると、ポテトチップスを含むスナック菓子の消費支出は、世帯人員が減っているにもかかわらず、世帯当たりの年間支出は2008年が3,293円だったのが2015年には3,710円と13%増えている。ポテトチップスだけでも味の濃さや風味によって何種類もあるようにスナック菓子のバリエーションが増えたこと、洋食化で嗜好品や飲料も西洋化していったことがその背景にある。
農林水産省がまとめた資料によると、日本の食料自給率(国内生産・国内消費)はカロリーベースで30%台に落ちたままだ。輸出額と輸入額のバランスでは、世界第1位の農産物の純輸入国になっているとする。国産と輸入の割合は食物により異なり、とうもろこしはアメリカ産が84%、大豆は同63%。一方、加工冷凍タイプを除いた生のジャガイモは国産が99%だ。海外で発生するイモ類の病気に対する防疫のための輸入規制がその理由である。
フィナンシャル・タイムズ紙は、この輸入規制について生産者を擁護する農業ロビーや団体の存在を取り上げている。ウォールストリートジャーナル紙ではアメリカがTPPから離脱したことで、将来日本のポテトチップスはオーストラリア産で占められ、アメリカにとっては損失になるとしている。スナックの世帯消費支出が増えており、その代表ともいえるポテトチップスの原材料マーケットは、米国のジャガイモ農家にとっては大きな存在であることをうかがわせる。
昨年の台風の影響後、カルビーでは「米国産で補うつもりだったが作柄が悪く不足分を賄うには至らなかった」としている(時事通信)。同社の輸入ジャガイモによるポテトチップの生産は、毎年2月~6月に輸入期間が限定され、農林水産省指定の同社加工工場(広島西)で2007年7月から開始された。米ペプシコとの資本提携は2009年からだが、その前段の流れとみても不自然ではない。一方でカルビーは国内のジャガイモ生産農家との信頼関係も厚いとされる。この度の自然災害によるダメージと米国との関係、そして農水省の規制のため一時的にせよ輸入ジャガイモの拡大が思うに任せないなど、難しい立場であることが想像できる。先の「米国産の作柄が悪く」というのは規制問題に対する言い訳のように聞こえなくもない。
◆根本的な問題は輸出が少ないこと
バターの不足の際も今回のようにマスコミや専門家の間では、規制の問題と国や関連団体による過剰な生産者保護が元凶であるとされる論調が多い。生乳について、農畜産物流通コンサルタント/農と食のジャーナリストの山本譲治氏が東洋経済に寄稿した記事によると、2006年の生産過剰による廃棄処理以後、酪農家は需要量に合わせたぎりぎりの生産を維持するようになったとされる。輸入飼料が高騰する一方、「価格を半分に下げても2倍牛乳を飲もうとする人はいない」ことから、過剰生産分は廃棄するしかない。生乳から「飲用牛乳」「チーズ」「バター」「脱脂粉乳」という生産の優先順位となるため、供給不足の割を食うのはバターになるという。
ジャガイモも同じような状況にあると想像できなくもない。国産じゃがいもの輸出は極めて少なく、輸入規制の手前、大々的な輸出拡大はできないだろう。国内生産、国内消費をしている限りは、食の嗜好変化の影響を受けるため生産は控えられ、国産品が多い食材や食品ほど、供給不足がしばしば起きることが予測できる。
これらの話を総合すると、ジャガイモもバターも、その不足の原因は思い切った拡大生産にメリットがないからだと理解できる。農業従事者の高齢化も離農者の増加もその結果であり、それが原因で日本の農業が衰退しているのではない。農業と食料の問題は「自給率が低い」ことではなく「輸出が少ない」ことに目を向けるべきだろう。輸出できるほどの生産量ならば価格が下がり、国内供給でも輸入品に対抗できる。離農が減り、若者の従事者も増え、好循環が期待できる。
◆規制の見直し、魅力ある産業へ
世界の地理情報を提供するWorldatlasがまとめた食品輸出の上位20の国別ランキングには、当然のことだが日本は挙がっていない。アメリカの1位に続き、2位はオランダ、3位はドイツだ。
世界の農業に関する分析情報を提供するGro Intelligenceでは、日本の農業について、国の面積もGDPのランキングでもほぼ同位置にあるドイツと比較し、農耕地と山林の比率の違いを示している。ドイツは農耕地が山林の比率より大きいが日本はその逆なのだ。もちろん山岳地帯の面積の違いや生態系保護の観点、林業との調整など熟考する点も数多くあるが、スタートラインとして日本の土地の活用について考え直してみる必要があるのかもしれない。同研究機関では、リンゴや日本産牛肉など、高級食材として輸出が拡大している例も示し、古い規制の見直しや若い世代に魅力的な産業にする必要があると結んでいる。
今回のポテトチップスの品不足は、日本の農業が抱える根本的な問題を浮き彫りにしたと言えるだろう。これを好機としてもう一度問題の所在とその解決策について考えてみたい。
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