アメリカの学校の始業時間は早すぎる? 交通事故の発生率にも影響か

 日本の電車に朝乗ると居眠りをするサラリーマンや学生がたくさんいることに気付く。しかし日本人だけが朝、睡魔に襲われているわけではない。なんとアメリカの学生達も睡眠不足に悩まされているという。その原因の一端となっているのが学校の早すぎる始業時間だ。

◆アメリカの子供を悩ます始業時間
 アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のレポートによると、全米合計39,700校もの公立中学、高校、そして中高一貫校の平均始業時間は8時3分だという。そして17.7%の公立校だけが8時30分以降に始業時間を設けている。このように多くの学校が比較的早い時間帯に生徒を登校させているが、米国小児科学会がこの現状に警鐘を鳴らしている。同学会の調査によると、8時30分より早い始業時間は生徒の睡眠不足を助長しているという。8.5時間から9.5時間の睡眠が生徒にとっては最適であり、生徒の健康を維持するためにも始業時間の是正を強く提唱している。

◆是正への取り組みとその効果
 はたして始業時間をずらしただけで生徒の睡眠時間は変わるのだろうか。アメリカ睡眠医学会の学術雑誌『Journal of Clinical Sleep Medicine』はそのような疑問を解消する興味深い調査結果を発表した。アメリカの一地域の中学、高校で従来通りの始業時間の年と、1時間送らせた始業時間を設けた年を比較すると、後者の年に12分から30分の睡眠時間の増加が観察されたという。そして平日に8時間以上の睡眠をとる生徒の数は35.7%から50.0%へと大きく増加し、9時間以上の睡眠をとる生徒も6.3%から10.8%へと増加した。また驚くべきことに始業時間の是正によって、17、18歳の生徒の運転による交通事故の発生率にも効果が現れた。調査の行なわれた地域において、始業時間の是正が行なわれなかった生徒の交通事故発生率が7.8%と増加した一方で、実験の行なわれた学校の生徒による交通事故は16.5%も減少した。このように始業時間を遅らせるという措置は、生徒の健康面にとどまらない大きな影響を見せた。

◆実施を阻む障壁とは?
 米ニュース雑誌のTIME電子版によると、始業時間是正を阻む様々な障壁を報じている。同誌は学校の始業時間を遅らせることによる影響は生徒だけではないとしている。なぜなら学校のスケジュールは現地のコミュニティと連動しているからだ。始業時間が変わることによって、交通網のスケジュールや生徒を雇用している小さい企業、また公園の閉園時間など多方面に影響が及ぶ。また他校が導入していなければ、放課後の学校を超えた交流にも不都合が生じる。こうした課題への対応には、コミュニティ全体の協力が不可欠なのだ。そのためにも睡眠というものの重要性をコミュニティ全体に喚起していくことが求められている。

 アメリカの学校の始業時間の是正には、睡眠に対しての意識改革が最も必要なものなのかもしれない。また、日本でもこうした取り組みが、いつか眠たげな通学者を助けてくれるかもしれない。

Photo Brunal/shutterstock.com

Text by Yota Ozawa