世界で進むキャッシュレス化、遅れる日本 所有カード枚数は多いが使用せず
電子決済の普及により、世界的に現金を使う機会は減りつつある。このペースでいけば、現金がこの世からなくなる日も近いという見方もあるが、完全なキャッシュレス社会到来には課題もある。日本でも2020年の東京オリンピック、パラリンピック開催を前に政府がキャッシュレス化に取り組んでいるが、思惑通りには進んでいないようだ。
◆欧米ではキャッシュレスが理想も、現金の必要性は否定できず
オランダのING銀行が15ヶ国1万5000人を対象にした調査によれば、欧米では3分の1以上が「選べるなら完全なキャッシュレスにする」と回答した。実際に現金を使うことなく生活している人も多く、アメリカ人の34%、ヨーロッパ人の21%がほとんど現金を持たないと回答した。また、回答者の4分の3が、現金を使う機会が来年はもっと減るだろうと見ている。
その一方で、過半数はいまだに日々現金を使用しており、アメリカ人の60%、ヨーロッパ人の80%が、過去3日間に現金を使用したと回答した。さらに、回答者の76%が、(望んでいても)完全なキャッシュレスにすることはできないだろうと答えた。
◆現金は消えない。キャッシュレスの犯罪防止効果は予想以下?
ING銀行のシニアエコノミスト、イアン・ブライト氏は、現金は非現金に比べて匿名性が高いことが好まれる主要な理由の一つだとし、真のキャッシュレス社会の到来はないと考えている。同氏はまた、より進んだ別の選択肢があるにもかかわらず古く時代遅れのテクノロジーはいまだに存在しているとして、まさにそれが現金だと説明する。「(現金は)絶対に確かで信頼でき、きちんと機能するテクノロジーだ。必要とあれば、現金だけでやっていける」とし、今後も多くの強みを持ち続けるとしている。よって、現金の流通を止めてしまうより、コーヒーや新聞などの少額の買い物には現金を、その他の支払いには非現金を使うやり方でよいと述べている(ビジネス・インサイダー誌)。
イギリス、アイルランドのマスターカードのトップ、マーク・バーネット氏は、ブライト氏とは逆の考えで、30年後には現金を使うことは「荷馬車」なみに古臭くなるとしている。現金の存続に疑いを持つ同氏は、ポケットで小銭の音を鳴らすことなど時代錯誤のレベルになるとビジネス・インサイダー誌に話している。
お札はともかく、ポケットに硬貨というのは確かにわずらわしいかもしれない。そこで完全キャッシュレスまでとはいかずとも、コインレスの道を模索しているのが韓国だ。聯合ニュースによれば、消費者が現金で買い物をした際のおつりを、直接その人のプリペイド、またはモバイルカードに入金し、つり銭を出さないようにする実験が4月20日にスタートした。現在実験に参加しているのは、大手コンビニ、ディスカウントストア、デパートのみだが、コインレスが一般に普及すれば、コインを製造するコストもかからなくなる。韓国では昨年537億ウォン(約53億円)がコイン製造に費やされており、国の支出の削減にもつながると見られている。
利便性以外に、キャッシュレス社会では犯罪の減少も期待されている。ウェブ誌『クオーツ』によれば、欧州中央銀行は来年より、マネーロンダリングやテロリストの資金調達を防ぐため、500ユーロ札の発行を取りやめるという。ただ、昨年出されたドイツ銀行のレポートによれば、カード詐欺による損害と流通する偽札の金額の割合は10:1で、犯罪防止効果についてはまだ議論の余地が残るとビジネス・インサイダー誌は見ている。
◆手持ちカードはアメリカを上回る。でも現金大好き日本人
さまざまな議論はあるが、北欧諸国や韓国などはキャッシュレスに向けてすでに舵を切っており、世界で現金以外の多様な決済手段が広がっている。しかし日経新聞によれば、日本では現金の流通が増え続けており、日本の現金流通高のGDP比は19.4%で、ユーロ圏10.6%、アメリカ7.9%、イギリス3.7%と比べ突出して大きい。日本を「現金大国」にしている要因の一つは「タンス預金」だという日銀の指摘を、同紙は紹介している。
カードは日本でも徐々に普及しており、クレジットカード、デビットカード、電子マネーなどの平均保有枚数は7.7枚で、アメリカ人の4.1枚を上回る(日経新聞)。しかし、日本ユニシスのレポートによれば、2014 年の日本での個人消費支出に占めるカード支払い比率は17%で、韓国73%、カナダ68%、オーストラリア63%、中国55%、アメリカ41%と比べてかなり低くなっており、キャッシュレス社会への急速な移行は難しそうだ。
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