プレミアムフライデー開始、海外は効果に懐疑的 問題視される根本の日本の労働文化

 長時間労働の是正と個人消費の喚起を狙い、月末の金曜日は午後3時に仕事を終えることを目指すプレミアムフライデーが2月24日に初めて実施された。海外メディアは、このイベントとともに労働時間削減のための日本企業のさまざまな取り組みを紹介したが、独特な日本の労働文化を変えるのは容易ではないと見ている。また、従来の時間を基準とした労働への評価も変えるべきだとしている。

◆長時間労働を反省。政府の思惑通りに行くか?
 ガーディアン紙は、消費不振と日本の悪名高きお粗末なワークライフバランスへの反省から、政府は企業にプレミアムフライデー導入を求めていると解説。人々が空いた時間で買い物をしたり、早めの週末を使ってレジャーを楽しむことが期待されることに加え、若い電通社員の自殺を招いたような過酷なまでに長い労働時間に対応するための試みでもあるとしている。

 ロイターは、労働人口が減少するなか、政府は労働時間を短縮することによってより多くの女性に働くことを促し、父親たちにもっと子育てに参加することを求めていると述べる。また、レジャーの時間が増えることは、子作りの時間も増えることを意味し、出生率上昇の狙いもあると指摘している。

◆ユニークな時短への取り組みも。企業も知恵を絞る
 SMBC日興証券の試算では、プレミアムフライデーに参加する日本人労働者の数は、全体の6.5%ほどと少ない。しかしロイターは、徐々に企業が労働時間削減に取り組み始めたと述べ、PR会社のサニーサイドアップが、初回のプレミアムフライデーで3時に仕事を終えた社員に3200円を支給するとしたこと、またオリックスが有給休暇を5日間以上連続で取った社員に、最大5万円の報奨金を出す制度を導入することなど、金銭的なインセンティブを使った例を紹介している。

 他にも、午後6時になると終業の合図として映画『ロッキー』のテーマソングを流す三井ホーム本社、ノー残業デーを設け、その日に残業した社員には紫色の恥ずかしいマントを着用させる人材派遣会社のセントワークス、午後8時には電気を消灯する東京都庁など、ユニークな取り組みもあると報じている(ロイター)。

◆海外は日本の労働文化を問題視
 しかし海外は、日本の長時間労働の解消は一筋縄では行かないと見ている。日本で働いた経験のあるユーロニュースのエディトリアル・プロジェクト・マネージャー、ハビエル・ヴィラガルシア氏は、残業することは日本社会の暗黙のルールであり、文化的なものだと断じる。さらに上司よりも先に帰ることは良しとされず、飲みに誘われれば断りづらく、これも一日が長くなる原因だとする。ほとんどのサラリーマンは朝晩電車に揺られて通勤し、長時間働いてくたくたに疲れているが、それは努力して完璧を目指す日本人のDNAに組み込まれているものだと解説している。

 ヴィラガルシア氏が、長時間労働に関連する日本のもう一つの悪い習慣と呼ぶのが、有給休暇の消化率の低さだ。ガーディアン紙も、2015年に取られた有給休暇は平均8.8日で、取得できる日数の半分にも満たなかったと指摘。バリバリ働くとされる香港の100%、シンガポールの78%と比べ、あまりにも少ないとしている。ヴィラガルシア氏は、有給を半分以上取れば、会社に睨まれるのが実情だと語る。

 こうした労働文化が変わらなければ、労働者が長時間労働のプレッシャーから解放されず、プレミアムフライデーのような取り組みも機能しないというのが、海外メディアの見方のようだ。

◆働き過ぎは生産性を落とす。今こそ思考の転換を
 ロイターは、残業を無くすには、日本には「かなり抜本的な見直しが必要」という一橋大学の石倉洋子名誉教授の考えを紹介する。同教授は、日本のオフィスにははっきりしない役目を持ったゼネラリストが多すぎ、仕事のアウトプットを測ることが難しいため、非生産的な時間をデスクで過ごさせることを促す形となっていると指摘する。長時間労働で生産性向上とイノベーションは期待できないという考えだ。

 これに対して経済界からは、労働時間を制限すれば日本企業の国際競争力が低下するなどの声も出ているが、株式会社ワークライフバランスの小室淑恵氏は、すでに日本株式会社はグローバルな強みを失っていると指摘する。パフォーマンスを向上させ、トップ人材を引き付けるには、古い思考を変える必要があるという同氏は、以前は長時間労働が勝利のための武器だったが、いまやそれが負けの原因となっているのが現実だとしている(ロイター)。

Text by 山川 真智子