1日6時間労働を可能にする高い生産性と幸福度 日本も「世界一幸せな国」から学び挑戦を

 日本を訪れる外国人観光客にとってラッシュアワーの電車ほど不思議な光景はないであろう。失礼だとわかりながらも思わず写真を撮りたくなるほどである。車両の中の人の多さに驚くと同時に、絶望的な表情を浮かべたたくさんの顔が目に焼きつき、思わず疑問が湧いてくる。「仕事にとらわれて毎日長時間働く人は幸せだといえるのか」と。

 仕事で疲れている人の中にはこのように自問自答する人もいるに違いない。だが、この問いに向き合い、仕事の効率と幸福度との密接な関係について考え直す必要があるのは、経営者のほうではないだろうか。日本でもより「幸せな働き方」は可能なのだろうか。世界一幸せの国デンマークやそれに倣った国々の近況を見てみたい。

◆1週間に33時間しか働かないデンマーク人
 1人当たりのGDP、社会的自由、健康寿命などに基づく世界幸福度報告書にて、デンマークが2016年の世界一幸せな国となった。当然「幸せ」の定義は文化によって異なるため調査結果には限界があるが、他の研究成果と同様、同報告書においても幸福度と仕事の関係は明確とされている。

 デンマークは世界一幸せな国であると同時に、ヨーロッパの中で労働生産性が最も高い国の一つでもある。その生産性は、長い労働時間によるものではない。1週間の法定労働時間は37時間だが、最近のOECDの調査によると、デンマーク人の労働時間は平均33時間なのである。

 では、デンマーク企業の高い生産性はどこから来ているのであろうか。研究者は従業員の幸福度だと指摘している。イギリスのウォーリック大学の研究成果によると、幸福度と仕事の効率が相互に影響し合い、幸福度が高い従業員の労働生産性は、幸福度が低い従業員よりも12%高いという。即ち、与えられた仕事を短時間でこなすことによって家庭や趣味で使える時間が増え、それに従い幸福度が上がる、ということだ。また、幸福度が高ければ高いほど仕事の効率が上がるという好循環も成り立っているのである。

◆定例会議はたった8分で終わる
 では、どのように生産性に悪影響を与えず労働時間を短縮させ、このような好循環を生み出しているのだろうか。デンマークと並んでワーク・ライフ・バランス度が高いスウェーデンでは、今でも一日6時間の労働時間制を導入している企業が多い。長時間にわたる労働が効率を下げると考えているこれらの企業は、労働時間を短縮するために長いミーティングや仕事中のソーシャルメディアの利用を禁止している(英紙インデペンデント)。

 また、労働環境をめぐる柔軟性も非常に重要であろう。北欧のワークスタイルが他の文化にも当てはまるかどうかを確かめるため、アメリカや英国の様々な企業が実験的にフレックスタイム制を導入している。6時間制度を導入している英国のマーケティング企業「Agent」では、社員は8時半〜3時半と10時半〜5時半という二つのシフトから働く時間帯を選択でき、在宅勤務も推奨されている。また、一日の労働時間を減らすため、以前は1時間以上行っていた定例会議を8分にまで短縮したという(米ニュースサイト『CO.EXIST』)。

 さらに休憩時間についても新たな規則を設けている。これまで「Agent」の社員たちはパソコンの画面を眺めながら昼食をとりがちであったが、現在は1時間の休憩の間、オフィスから出て外で過ごすことを求められている。そうすることによって新たな刺激を受け、斬新なアイディアを仕事に活かすことができると、同社のCEOが語っている(CO.EXIST)。

◆育児・子育てしない人もワーク・ライフ・バランスを求めるべき
 少子化問題に直面する社会においては、「ワーク・ライフ・バランス」が「ワーク・ファミリー・バランス」として捉えられがちであり、しばしば育児・子育てと仕事の両立を支援することに焦点が当てられている。しかし競争力のある会社を目指す経営者ならば、子どもを持っているか否かに関係なくすべての社員に平等に、柔軟な働き方の選択肢を与えるべきだ。

 子育てを満喫するのか美術館や旅に出るのか、プライベートライフをどのように過ごすのかを問わず、仕事から離れて費やした時間がどのように人の幸福度を上げるのか、また幸福度がどのように仕事のパーフォーマンスに影響しているのかに注目すべきだと研究者が指摘している。

◆「生きるために働く」か「働くために生きるか」
「生きるために働く」か「働くために生きるか」、毎日残業に追われながら自分の働き方に疑問を抱く人は少なくないであろう。もはや専門用語ではなくなった「ワーク・ライフ・バランス」を問うことが個人、そして企業の課題になりつつあり、現代社会のニーズに合わせた新たな働き方を検討する必要があるだろう。デンマークをはじめ、北欧の国々は世界一ワーク・ライフ・バランスの達成度が高いと言われており、そのモデルを試してみる価値はある。

 とはいえ、欧米で活用されているモデルは必ずしも日本社会のニーズに当てはまるとは限らない。それでも、日本においてもワーク・ライフ・バランスの向上は可能であると自覚し、企業にせよ個人にせよ仕事と生活を調和させる理想のワークスタイルを模索し、働き方の変革を起こすべきではないだろうか。

Text by グアリーニ・レティツィア