「日本人はミニマリスト」こんまりブームでイメージ定着 禅の影響を海外メディア指摘
近藤麻理恵氏の著書「人生がときめく片づけの魔法」が海外で人気となり、「日本人=ミニマリスト」だと紹介する海外メディアが増えている。禅に影響された日本の最低限主義を肯定的に紹介している記事や、物を捨て去る文化の広がりに警鐘を鳴らす人の声を取り上げたものもある。
◆断捨離は良いことずくめ
ロイターは、「ぼくたちに、もうモノは必要ない。 – 断捨離からミニマリストへ -」の著者、佐々木典士氏の自宅を紹介し、かつては本やCD、DVDなどのコレクターだった同氏が、いかにして必要最低限のものしか持たないミニマリストに変貌を遂げたかを説明している。
同氏のアパートは、まるで「取調室」と友人から形容されるほど殺風景で、衣類もシャツ3枚、ズボン4着、ソックス4足と少なく、家財道具も最低限しかない。「自分が持っていないもの、欠けているものについて考えてばかりいた」という同氏は、トレンドについて行く生活に疲れ、所持品の売却や譲渡を決行。今では「掃除や買い物の時間が減り、友達と出かけたり休みの日に旅行したりすることに、より時間を使えるようになった。以前よりずっとアクティブになった」と語っており、現在の生活に満足しているようだ。
◆禅の影響?消費社会に挑戦
ロイターは佐々木氏の場合を例に、ミニマリストのゴールは断捨離ではなく、別のなにかを得るために、所有することの意味を再評価することだと述べ、ミニマリズムは禅仏教とその必要最低限という世界観の自然な結果であるという考え方が、信奉者のなかにあると述べる。
フリーランスライターで、「最小限主義。」の著者、沼畑直樹氏は、「西洋では、空間を完成させるということはそこに何かを置くことだが、茶道や禅では、人の想像力でその空間を完成させるため、あえて不完全なままにされている」と述べており、日本のミニマリストが禅仏教の影響を受け、所持品を減らすことで、消費社会の規範に挑戦しているとロイターは説明している。
豪ニュースサイト『news.com.au』のレポーター、アリス・ウィリアム氏も、1ヶ月の日本旅行を終えて、多くを得ることこそ良いことだという西洋的考え方を変え、シンプルに暮らすことこそ、豊かさを楽しみ、ストレスを減らすことだと結論づけている。中途半端に取っておくより思い切って捨てる、3食バランスのいい食事を摂り不要な間食はしない(同氏は日本で歩きながら飲食している人がいないと驚いている)、1つの趣味にうんと張りこむが、他は実用性重視という量より質の考え方など、禅の考えを大切にする日本人に学ぶところが多いとしている。
◆無個性な商品の時代。物への愛着はどこへ?
こんまりメソッドを筆頭に、多くの外国人に驚嘆と称賛をもって迎えられる日本のミニマリズムだが、それに異論を投じる人として、ニューヨーカー誌が写真家の都築響一氏を紹介している。
都築氏は、衣類から本、CD、芸術品まで、山ほど物が貯め込まれた小さな東京の住居を収めた写真集「東京スタイル(Tokyo Style)」を1997年に発表している。「本当の東京スタイルを見て欲しい。悲観的なほど満杯、絶望的に雑然としていても、これが現実だ」と述べ、好きな物に囲まれた所有の喜びを選んだ人々の現実を示す同氏は、近藤氏が広めた日本文化に異議を唱える。
前出の佐々木氏は、多くのミニマリストが東日本大震災をきっかけに物の所有の見直しを始めたとロイターに語っており、ニューヨーカー誌も、こんまりブームには震災の影響もあるのではないかと都築氏に尋ねている。これに対し都築氏は、「我々は安価で機能的、特徴のない商品の時代に入っている。ユニクロや無印良品のような企業が大きくなり、我々の周りはそのような商品で溢れている。そのこと自体は悪くはないが、我々にそれらの商品を愛す必要はない」と述べ、むしろ愛着を感じない物が増え、簡単に捨ててしまえる時代になったからこそ、近藤氏の成功があったのだと説明する。
都築氏は自身のメールマガジンで、読者や友人の「捨てられないTシャツ」をテーマに連載をしており、個性なく機能的なデザイン哲学とは正反対にある、物への愛着が、まだまだ日本では大切にされていることを強調している。