絶滅危惧のクロマグロ、“政府の漁獲規制では不十分”立ち上がる壱岐の漁師 海外も注視
高級マグロの代表であるクロマグロが、絶滅の危機に瀕している。巻き網を使っての漁法、若いマグロの獲りすぎなどの問題が指摘され、近年やっと規制が始まった。しかし、一本釣りで知られる長崎県壱岐の漁師たちは、それでは不十分だと反発。彼らの訴えに、英紙が賛同している。
◆ついに絶滅危惧種に
クロマグロは、太平洋の熱帯・温帯海域に広く分布。米公共ラジオ『NPR』は、世界のクロマグロの80%は日本で消費されており、その個体数の急速な減少は、主にアジアのすしや刺身の需要のためだと説明する。
2014年の国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、絶滅の「深刻な危機」にあるミナミマグロ、「危機」にある大西洋クロマグロに続き、クロマグロは「軽度の懸念」から「危険性が増大」に引き上げられ、絶滅危惧種に指定された。米NBCのベイエリア版によれば、クロマグロの個体数は乱獲が始まる前のわずか4%ほどになっている、と科学者たちは警鐘を鳴らしている。
◆乱獲に一本釣り漁師も立ち上がる
資源枯渇の危機感を抱く、クロマグロの一本釣りで生計を立ててきた長崎県壱岐の漁師たちの声を英紙ガーディアンが取り上げている。漁師の1人は、「20年前は、漁船の下を泳ぐクロマグロの群れが3キロに渡って続いていた」というが、今ではそんな光景は皆無。クロマグロの群れは産卵のため壱岐の約400キロ北東の海にやってくるが、日本のハイテク船団が待ち構えており、水中音波探知機や巨大な巻き網を使って根こそぎ捕まえ、大手の水産会社に売り渡す。そのような商業的漁業のすさまじい破壊力が、急速なクロマグロの資源枯渇の原因だと同紙は説明する。
国際的には若いマグロの乱獲が個体数減少の主要因とされており、2015年には西太平洋での未成熟クロマグロの漁獲規制が始まっているが、壱岐の漁師たちはそれでも満足しない。『壱岐市マグロ資源を考える会』の中村稔会長は、「産卵させなければ次の世代の魚は生まれない。だから未成熟魚だけを規制するだけでは意味がない」とし、産卵期のクロマグロの漁獲制限を訴える。中村氏によれば、ハイテク漁業船団が壱岐近海のクロマグロの産卵場に現れるようになってから、一本釣り漁師が釣るクロマグロの数は、2005年から2014年の間に90%以上減少したという。(ガーディアン紙)。
◆漁師より企業の保護
漁師たちの訴えに耳を傾けたのが、東京海洋大学の勝川俊雄氏だ。ジャーナリストのウィニフレッド・バード氏の取材に答えた同氏は、回遊魚であるクロマグロは餌を求めて広範囲に分布するため、個体数の減少も手伝って探すのは困難と説明。しかし、産卵期は一ヶ所に戻り、そのルートも限られているため、巻き網で捕獲できてしまうと指摘した。また、壱岐近海で操業する巻き網船は1800トンまでという自主的な漁獲制限をしているが、その数字の有効性に科学的裏付けはなく、政府は漁を家業とする人々の未来を犠牲に、企業の利益の保護をしていると批判する(ガーディアン紙)。
バード氏によれば、勝川氏はこの件に関しメディアを通じ啓蒙することに成功しているが、査読を受けた学術論文を発表していない。日本政府は、未成熟魚の捕獲減を重視する国際的な科学者や管理機関のアドバイスに従うだけと主張。昨年5月、水産庁の関係者が国会において、勝川氏の主張こそ「バランスと科学的根拠を欠く」と述べたという(ガーディアン紙)。
◆科学的データは少ない
日本政府はクロマグロ保護で、国際機関の科学的お墨付きを重視しているが、そもそも、個体数を回復するうえで、どのように捕獲数を割り当てるかへのコンセンサスはほとんどない、という研究者もいる。高速で長距離を回遊するクロマグロのデータ収集は非常に困難であり、「回復のための計画づくりに役立つ科学的データは少ない」と米モントレー・ベイ水族館の理事長、ジュリー・パッカード氏は指摘している(NBC)。
海洋環境学者のフアン・ホルダ氏は、個体の減少の理由はひとつではなく、累積的な影響によるものだと説明。すべての漁場と異なる魚齢において漁獲規制をするべきだと述べている(ガーディアン紙)。
◆消費者も意思表示を
生物保護を目的とする、米国生物多様性センターのキャサリン・キルダフ氏は、買う人がいるから値段が上がり、乱獲が止まらないと述べ、クロマグロ絶滅を防ぐには、食べないという意思表示も必要だと主張する(NPR)。
壱岐の漁師は、天然資源は無限ではないと気づき、過去の過ちを悟り、行動を起こさなくてはと述べる(ガーディアン紙)。マグロ好きには辛いが、この先もずっとクロマグロの味を楽しみたいのであれば、食べる側の我慢や協力も必要かもしれない。