東電旧経営陣強制起訴:海外メディア、市民のパワーを評価も“有罪の可能性低い”
福島第一原子力発電所事故に対する責任を巡って、検察が不起訴にした勝俣恒久元会長ら東京電力の旧経営陣3人が、検察審査会の決定により、強制的に起訴されることになった。7月31日に議決を発表した東京第5検察審査会は、「大きな地震や津波の可能性があったのに目をつぶって何ら効果的な対策を講じようとしなかった」などと旧経営陣を非難した。
福島第一原発事故関連で東電幹部が裁判を受けるのはこれが初めてとなる。「フクシマ」への海外の関心は高い。この件も欧米主要メディアが詳報している。
◆「安全性よりも経済的合理性を優先した」と非難
強制起訴されるのは、勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の3人。福島県の住民グループなどが業務上過失致死傷で告訴していた。原告団は、旧経営陣は津波の危険性を十分に認識していたにもかかわらず、有効な対策を取ることを怠り、放射能漏れという深刻な事態が引き起こされたと主張。その結果、近隣の病院からの避難に伴って多くの高齢患者が死亡したことや、原発施設内の作業で多くの自衛官・東電従業員が負傷したことに対する責任を負うべきだとしていた。
これに対し、東京地検は2013年9月、証拠不十分だとして全員を不起訴とした。原告団はこれを不服として検察審査会に諮り、勝俣元会長ら3人については起訴するべきだと議決された。これを受け、原告団はあらためて3人を告訴。しかし、東京地検は今年1月、3人を再び不起訴にした。今回の検察審査会の審査は、この2度目の不起訴に対するもので、賛成多数で強制起訴が決まった。
検察審査会は、たとえ津波による事故が「万が一」の「まれ」な事態であったとしても、東電幹部には発生に備えて適切な対策を取る義務があったと判断した。そのうえで、事故発生の2年前に、「15.7mの高さの津波を自ら試算していたことは絶対に無視することはできず、災害が発生する危険を具体的に予測できたはずだ」と指摘。適切な対策を取っていれば、今回のような重大で過酷な事故の発生を十分に避けることが可能だった」と結論づけた。さらに、旧経営陣の姿勢について「安全対策よりも経済合理性を優先させ、何ら効果的な対策を講じようとはしなかった」と強く批判した。
◆日本の司法制度で影響力を増す「市民の判断」
今回の検察審査会の議決を受け、東京地検は、検察の役割を果たす弁護士のグループをセレクトし、裁判を進めることになる。ただし、地検は「詳細はまだ何も決まっていない」としている(AP)。
検察審査会のメンバーは不作為に選ばれた一般市民11人だ。エネルギー関連ニュースサイト『Oilprice.com』は、「日本の司法における市民審査会は第二次大戦後、当局の権力濫用を防ぐために導入され、力をつけてきた」と指摘。英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)も、小沢一郎氏の政治スキャンダルを巡る不起訴の決定を覆した2010年の検察審査会の議決を例に出し、「市民の判断」が日本の司法制度の中で大きな影響力を持つようになった現状を紹介している。
原告の福島原発告訴団の武藤類子団長は、「ようやくここまで来ました。裁判によって事故の背景にある真実が明らかになり、正義が行われることに期待します」とコメント。一方、東電はFTなどの取材に対し、議決に対する直接的なコメントを拒否している。
◆「有罪になる見込みは極めて低い」
とはいえ、『Oilprice.com』やFTは、裁判で旧経営陣3人に有罪判決が下る可能性は極めて低いと見ている。「起訴されれば99%有罪となる日本において、2度にわたって不起訴となった」(『Oilprice.com』)ことが、有罪にできる見込みがほとんどないことを証明している、と識者の大半は見ているようだ。
東京地検は、不起訴の理由を有力な証拠がないためだとしている。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)のインタビューに答えた郷原信郎元検察官は、「このような事件は、ほぼ無罪に終わる」と述べている。郷原氏は、今回の裁判では、被告が「巨大津波が施設を襲うことを予測することに失敗した」ことと、「適切な対策を取って施設を守ることを放棄した」ことを証明しなければならないが、これは極めて困難だとしている。
同氏は原子炉のメルトダウンと、避難のさなかの高齢入院患者らの死の因果関係を証明することも非常に難しいと指摘する。また、「(郷原氏は)福島第一原発の放射能による死亡例がないことも強調した」と『Oilprice.com』は記す。こうした意見に代表されるように、旧経営陣を有罪とするハードルは非常に高いというのが、多くの海外メディアの共通した見方のようだ。