村山元首相、英紙で談話継承訴える “謝れば終わる問題ではない”
天皇皇后両陛下は9日、太平洋戦争で約1万人の日本兵が命を落としたパラオ共和国のペリリュー島を訪れ、日本政府が建立した慰霊碑に献花した。その後、同島の米軍の慰霊碑にも黙祷を捧げた。両陛下は同日夜帰国し、2日間のパラオ訪問を終えられた。
海外メディアもこの両陛下の平和への願いを伝えているが、今回のご訪問に合わせるように、戦後70年を迎えた「日本」と「戦争」について論じた報道も目立つ。英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、同日付で「村山談話」の継承問題について、村山富市元首相本人のインタビュー記事を掲載。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、“最後のゼロファイター”こと、元ゼロ戦パイロットの原田要氏の戦争体験と反戦の願いにスポットを当てている。
◆BBC「陛下は政府とは異なったメッセージを送っている」
英BBCは、両陛下の献花を伝えるニュースで、「明仁(今上)天皇は、これまでも何度か、日本は歴史から学ばなければならず、何が起きたか決して忘れてはならないと述べてきた」と、陛下の先の戦争への思いを紹介。その一方で、ご訪問は、中国や韓国が、「ナショナリストの安倍晋三に率いられた現在の政府」の「戦争に対する無反省な態度」を批判する中で行われたとしている。
一方、BBC東京特派員のルパート・ウイングフィールド=ヘイズ記者は、日本政府の「戦争」への対応は近隣諸国からの批判が多いが、天皇陛下は「自身の巧妙な方法で政府とは異なったメッセージを送っている」と解説。BBCは、前夜の晩餐会での「ここパラオの地において、私どもは先の戦争で亡くなったすべての人々を追悼し、その遺族の歩んできた苦難の道をしのびたいと思います」という、日本国民に限定しない陛下のお言葉も紹介している。
◆“最後のゼロファイター”は語る。「戦争ほど恐ろしいものはない」
天皇皇后両陛下の慰霊碑への献花は、ペリリュー島の戦いを生き抜いた元日本兵や遺族が見守る中で行われた。両陛下は列席した一人ひとりにお声をかけられたという。NYTは、そうした戦争経験者の中から、元零戦パイロットの原田要氏を取り上げている。同紙は原田氏を「かつては空のサムライと恐れられた19機撃墜の伝説の零戦パイロット」と紹介。98歳の今は講演会などで戦争体験を語ることで、不戦の誓いを伝える「ファイナル・ミッション」に就いているのだという。
「私は零戦のコクピットで戦争を戦った。そして、死に追いやった人たちの顔を覚えている」。原田氏は、撃墜するために接近した際に見た、敵パイロットの怯えた表情が脳裏に焼き付いていると語る。「彼らは父親でもあり、息子でもあった。私は彼らを憎んだわけではない。知りもしなかった。戦争は、そうやって人間性を奪う」。同氏は戦後、かつては敵同士だった米軍パイロットと親交を温めているという。
そうした実体験から、「戦争ほど恐ろしいものはない」と原田氏は断言する。そして、ほとんどの戦友がこの世を去り、自身の健康状態も芳しくない中、戦争体験を語れる者がいなくなれば、日本は戦争のストーリー以上のものを失うと危惧する。そして、現政権の憲法再解釈などの動きについては、「それを目指す政治家たちは戦後生まれだ。だから、なにを置いても(戦争は)防がなければならないということを理解していない」と語る。そして、安倍首相らは「我々の時代の戦前の指導者たちに似ている」と述べている。
◆村山元首相が村山談話の継承を訴える
FTのインタビューに答えた村山元首相は、安倍首相が今夏の戦後70周年式典で“新談話”の発表を検討している事について、自身の「村山談話」を継承すべきだと批判している。「もし、村山談話の“植民地支配”と“侵略”の問題を骨抜きにしたり、触れること避けたりすれば、韓国と中国は再び日本に不信と懸念を抱くだろう」と元首相は語る。
ただし、村山元首相は「謝罪」が目的ではないと強調する。「ゴールは謝罪することではない。重要なのは、良い事であろうが悪いことであろうが、我々が過去に何をしたかという事を認識することだ。それは、韓国や中国の人々に謝れば終わるという問題ではない」という。村山氏は、「日本の人々も戦争の被害者だ」とも述べている。
FTは、22日にインドネシアで開かれるアジア・アフリカ会議(バンドン会議)と、その後米議会で予定されている安倍首相の演説が、70周年談話の“ロードテスト”になるとしている。「安倍首相が談話を聞かせたいのは、中国・韓国ではなくアメリカだ」と、同紙は首相の諮問機関のメンバーの見方を借りて述べている。米議会などでの演説は、そのための観測気球を上げるのにもってこいの場だということのようだ。