“ネットあるだけまし?” 日本の労働環境のダークサイドを描いた短編、海外で共感

 日本人フォトジャーナリスト深田志穂氏による”Japan’s Disposable Workers[日本の使い捨て労働者]”と題された短編ドキュメンタリー・シリーズが、海外メディアの注目を引いている。ドキュメンタリーの主題は日本の雇用環境を巡る問題点だが、不安定な雇用への不安や貧富の格差への不満が増大する欧米圏の共感を得ているようだ。

◆増加する非正規雇用
 アベノミクスの裏で増加する非正規雇用の実態を指摘しているのが、12日付けのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙の記事だ。同紙は、安倍晋三首相が推進するデフレ脱却と賃金上昇による「経済の好循環」を目指す政策を指摘する。その政策の一環として労働規制の緩和があり、正社員の解雇を容易にすることで、新規の雇用(非正規雇用も含む)を増やすのが狙いだとする。実際、安倍氏が就任した2年前から非正規雇用者数は1820万人から1990万人へと100万人以上増加、正規雇用者は3340万人から3270万人へと減っている。また、非正規雇用者数は増加している一方、実質賃金は下落の一途をたどっていることを示している。

◆日本の不安定な雇用環境をあぶり出す作品
 “Japan’s Disposable Workers”は、日本の雇用を取り巻く問題を主題にした、4分〜10分ほどのドキュメンタリー作品から構成されている。
“Overworked to Suicide[過労自殺]”
“Internet Cafe Refugeees[ネットカフェ難民]”
“Dumping Ground[ゴミ捨て場]”
“Hostess Girls[ホステス嬢]” の4つだ。

 “過労自殺”と”ネットカフェ難民”では、正社員のレールから外れることを極端に恐れ、またそれを許さない風潮がある日本の企業文化について描いている。”ゴミ捨て場”は大阪市西成区の釜ケ崎に住む日雇い労働者の高齢化問題について取り上げ、”ホステス嬢” では、若くして高額を稼いでいるキャバ嬢をインタビューし、日本での女性の雇用環境の問題点をあぶり出している。

 “Japan’s Disposable Workers”のウェブサイトの紹介文では、アラブの春やロンドンの暴動、Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)運動などは、「不安定な雇用とそれに対する政治的な動乱」であり、不安定な雇用状況がこういったグローバルな問題に発展していると指摘している。

◆7000以上にも上るシェア数
 このドキュメンタリー・シリーズに注目したのが、Twitter上で最も影響力のあるニュース発信源ともされるMashableや市民メディアとして脚光を浴びるGlobal Voicesだ。特にMashableでは、記事が7000以上ものシェアがなされているが、ほかの記事が軒並み1000から3000の間であるのを考えれば、関心度の高さが窺える。

 Mashableに寄せられた意見には
・これの何が悲しく怖いのかって、アメリカも同じように向かっているからなんだ。
・イギリスやアメリカでも大部分で、1ヶ月30ドルくらいで借りられる物置やトランクルームに住んでいる人がいる。
・イギリスのブラックプールに住んでいるけど、温かいトイレに20ペンスで住んでいる人がいる。ネットがあるだけ日本人はまだマシだね。
といったものがある。

 GDPの伸び率は年率5%という11年ぶりの力強い成長を見せるアメリカだが、政府の統計では貧困層は5000万人近くに上っており、貧富の格差は格段に広がっている。ヨーロッパもギリシャなどによる債務問題という爆弾を抱え、好調からはほど遠い。つまり、雇用を取り巻く問題は「日本に限ったことではない」ということで、欧米圏からの共感を得られているようだ。

Text by NewSphere 編集部