日本で「政権批判報道の自粛」ムード拡大? 海外メディア懸念
このところ、日本の報道の自由度の低下を問題視する声が聞かれる。海外メディアは、安倍政権の機嫌を損ねることを恐れた日本のメディアが、政権批判に繋がる報道を自粛しているのでは、という専門家の意見を紹介し、日本の現状を危惧している。
◆政府が暗に示したシグナル
ロイターは、年末の総選挙前に、自民党から在京テレビ局に「選挙時期に一層の公平中立な報道」を求める文書が送られたことに言及。メディアはこれを、「批判を控えなければ政府関係者への取材が難しくなる」というシグナルだと解釈した、というジャーナリストの意見を紹介している。
また、安倍首相が指名したNHKの籾井会長が、「政府が『右』と言っているのに我々が『左』と言うわけにはいかない」と過去に発言したことにも触れ、メディアが権力にすり寄る日本の現状を指摘している。
専門家は、かつては政権に批判的だったメディアも、今ではずっと友好的な論調だと指摘。NHKの元プロデューサーで、武蔵大学社会学部教授の永田幸三氏も、「政府に対する批判は大幅に減少したのではないか」と述べている(ロイター)。
このような意見に対し、菅官房長官は24日の会見で、政府は報道の自由を全面的に尊重しているとコメントした。
◆報道自粛は日本の危機、との署名活動も
2015年の「世界報道の自由度ランキング」では、福島第一原発に関しての情報公開における透明性の欠如や、特定秘密保護法の施行を反映し、日本は180ヶ国中61位。2010年は11位、2012年は53位だった(ウォール・ストリート・ジャーナル紙、以下WSJ)。
イスラム国による邦人人質事件以来、報道自粛の動きを危惧し、表現の自由を支持するジャーナリスト、学者らを中心に9日に発表された「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明」に3000人近くが署名したと、ロイターは報道。声明の参加者は「現政権の施策・行動を批判することを自粛する空気が国会議員、マスメディアから日本社会までをも支配しつつあることに、重大な危惧を覚えざるを得ない」とし、日本国憲法の精神が尊重されるべきと訴えた(WSJ)。
◆人権が義務に置き換わる?自民党の憲法改正草案への懸念
ストーニー・ブルック大学で財政学を教えるノア・スミス准教授は、ブルームバーグ・ビューに、「日本はアジアで次の独裁国になるのか?」と題する論説を掲載した。同氏は、民主主義国家の日本をこのように論じることは、奇妙に思われるかもしれないと前置きする。しかし、自民党の憲法改正草案には、「公益および公の秩序を害する言論、表現の自由は国家によって規制される」と取れる内容があることを強く懸念している。
同氏は、公益や秩序を守るという「義務」が基本的人権より優先されることになると警告し、もし日本が反自由な民主主義に向かうなら、抑圧的国家・中国に対峙する存在としての日本の魅力は弱まり、価値観を共有できなくなることで、日米同盟の弱体化にもつながると危惧する。
同氏は、草案において、9条の改正よりも、自由より義務を優先する内容に注目すべきと述べる。いまだに1940年代の思考を持つような指導者がいなくなるまで、改憲は先延ばしにするのが日本のためだと主張する。そして、「日本は歴史上重要な局面を迎えている。より自由な社会になるか、より不自由になるか。前者が賢明かつ道徳的な選択だ」と記事を締めくくっている。